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「会社勤めはイヤ」自由な働き方の裏側にある厳しい現実【フリーランスの光と影・1】
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「会社勤めはイヤ」自由な働き方の裏側にある厳しい現実【フリーランスの光と影・1】

会社に雇用されず、個人で仕事をする「フリーランス」の働き方が注目されている。経済産業省は昨年11月、フリーランス人材の活用に向けた「雇用関係によらない働き方研究会」を立ち上げた。インターネット上には、時間や場所にとらわれず、仕事内容も自分次第の「自由さ」にあこがれる声が、あふれている。長時間労働で有給休暇も消化できないような従来の「日本企業の働き方」への反発も追い風だ。

しかし、実態はそう甘くはない。昨年、DeNA運営のキュレーション(情報まとめ)メディアが、デマや著作権法違反の疑われる記事を乱発して大炎上したが、その陰にはネット上で集められたフリーの外部ライターが買い叩かれている構造があった。「自由」という言葉に覆い隠された無責任な契約や「やりがい搾取」に飲み込まれてしまうリスクとどう向き合えばいいのか。(ライター・タキガワマイコ)

●第二新卒の間で「フリーランス希望者」が続出

「フリーランスのウェブライターになりたいんです」

新卒で就職した会社を数年内に辞めた「第二新卒」の再就職支援を行う人材サービス会社UZUZ(東京都新宿区)の就業相談では、企業への就職ではなく「フリー」で働きたいとの願望を口走る若者が後を絶たないという。

「フリーランスで食べていこうと思えば土日も定時も関係ない。病気になっても有休もなければ、ボーナスもない。そもそも会社なら、何もできない新人にも最初から仕事をくれるんですよ」。

同社専務の川畑翔太郎さんは「現実」を説いて、求人を案内することにしている。「会社勤めがイヤだからフリーランス…という安易な若者が多すぎる」と川畑さんは感じている。

「やっぱり会社員は最高だったんだ」。大手メディアを昨年辞めて、フリーのライター職を選んだ都内在住の女性(38)は、請求書の発行や税金の手続き、仕事を得るまでの打ち合わせや面接など「時給の発生しない業務」の多さに焦りを感じている。

5歳と2歳の息子たちが病気の時にも在宅で仕事ができる・・・と思ったが、はかどらなければ無給の時間が積みあがるだけ。交通費や住居費補助、通信費など、各種手当てのない月々の手取りは、思ったよりぐっと少ない。

親世代の理解のなさにも気が滅入る。「フリーで働くって、それはいいけど、いつ就職するの?」。電話越しの実母の心配そうな声にいら立った。

●実態は「電通超え」

「法定労働時間で考えると月の『残業時間』は120時間以上。電通超えですかね」

フリーランスでライターやウェブ編集者として仕事をしている、あおみゆうのさん(36)は、フリーランス14年目のベテランだ。月収は波があるとはいえ、多いときで100万円超、少ないときでもその半分はある。

しかし、その働きぶりは生半可ではない。平日は12時間、土日でも6時間は仕事をするという。昨年末に母親を亡くした時も、前後の日に仕事を詰めて何とか葬儀の時間を空けたが、終わった足で仕事場へ向かった。

「まる1日間、まったく仕事をしない日は1年で1週間くらい」と話す。「稼ぐ額が半分でいいなら労働も半分でもいい。でも、私は子供たちを育てなくてはならないから」。あおみさんは3人の子供のいるシングルマザーとして、覚悟を決めているが「だれにでも勧められる働き方ではない」。

●「ノマドワーカーブームの罪は重い」

8年前からフリーランスで生計を立てているウェブディレクターの男性(34)は「ノマドワーカーブームの罪は重い」と指摘する。特定の組織に所属せず、場所に囚われない働き方を指す「ノマド(遊牧民)ワーカー」は、東日本大震災後の2012年ごろに、もてはやされた。個人ブログを収益化するなど、フリーランスであることが多く、スターバックスコーヒーでアップルのノートパソコンを叩くスタイルもお馴染みとなった。

しかしウェブディレクターの男性は「ブームに乗って会社を辞めていたら、新製品を買えずに、分厚いノートパソコンのままなのでは」と皮肉る。自身はディレクター業務のほか、インターネットビジネスやライターなど複数の職業を組み合わせて働いている。

●間口を広げた「クラウドソーシング」

従来は個人事業主(フリーランス)で仕事をしようと思えば、実績があって取引先をすでに持っているか、どぶ板営業が必要だった。しかし、そのフリーランスの垣根を現代においてぐっと下げたのが、クラウドソーシングと呼ばれる仕組みだ。

2008年創業のランサーズや2011年創業のクラウドワークスといった大手に代表されるクラウドソーシング運営会社は、仕事を発注する企業とフリーランスで働く個人をマッチングする場をインターネット上に設けている。サイトを開けばウェブデザインにホームページ制作、写真にライティングなど、個人で請け負える仕事が価格も様々に提示され、多くのケースでは、メールアドレスの登録とパスワード設定により、その場で仕事を受けられる。

「ネット上で仕事がもらえるからやってみただけで、これがフリーランスの働き方だとかあまり考えていなかった」と、クラウドソーシングを通じてイラストやデザインの仕事を受ける東京都内在住の子育て中の女性(34)はいう。

突出したアクセス数や豊富なウェブ知識をもたない個人でもインターネット環境さえあれば収入を得られる点で、クラウドソーシングは画期的だった。実際に、子育てや持病、居住地などの制限から会社勤務が難しい人が、自宅にいながら収入を得られる道を開いているのも事実だ。

しかし、その気安さゆえ、とてつもなくブラックな仕事に簡単に巻き込まれてしまう事態を引き起こしている。昨年、大炎上したDeNAによる悪質なキュレーションメディアの量産問題は、その暗部を明るみに出した。

【連載・フリーランスの光と影】

第2回 まるで「道具扱い」、買い叩かれるクラウドワーカーhttps://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5697/

第3回 「会社員前提」の壁、乗り越えるための繋がりを求めて https://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5698/

第4回 労働法の枠外「自由に働ける」は幻想、労働弁護士が警鐘 https://www.bengo4.com/c_5/n_5710/

(弁護士ドットコムニュース)

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