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労働法の枠外「自由に働ける」は幻想、労働弁護士が警鐘【フリーランスの光と影・4】
今泉義竜弁護士

労働法の枠外「自由に働ける」は幻想、労働弁護士が警鐘【フリーランスの光と影・4】

場所と時間にとらわれない自由な働き方として、注目のフリーランスだが、「雇用されないこと」には大きなリスクも伴う。法的な側面からいえば、労働法(労働基準法など労働に関する法律の総称)の適用外となることに注意が必要だ。労働事件を専門とする今泉義竜弁護士は、「雇用されないことで誰が自由になっているのか、よく考えてほしい」と警鐘を鳴らす。今泉弁護士に詳しく聞いた。(ライター・タキガワマイコ)

●「労働法を勝ち取ってきた歴史が人類にはある」

――フリーランスが注目される風潮をどうみるか

自由で束縛されない働き方などとプラス面がクローズアップされていますが、労働者が束縛されないということは、企業も色々な「しばり」から解放されるわけです。「しばり」がなぜあるのかといえば、基本的には労働者を守るためです。「フリーランスになったら自由に働ける」というのは、実際のところ幻想なんですね。

本当に何かすごい技術や経験や知識があるとか、著名人であれば、色々な決定を自分でできて自由になると思います。ただ、一般的にはそうではない。依頼主との関係で要請に応えないと(契約を)切られる危険があったり、料金についても主導的に決めるような力関係にはなかったりというのがほとんどです。

――自由度の高さは働き手にとっても魅力では

フリーランスで働けば、圧倒的多数は不自由になると私は思いますよ。規制がなければ、どんどん(労働は)安くなっていきますからね。労働時間も無制限になるわけで、フリーランス化というのは基本的には、自由が奪われていく道だと思います。

せっかく労働法を勝ち取ってきた歴史が人類にはあるわけです。労働者が酷使されることがないように規制を作った歴史の中で今があるのです。安易にフリーランス化を進めることは、こうした歴史の流れに逆行するのではないでしょうか。

――フリーランスで自由になるのは、実は企業という意味でしょうか

企業が、どう責任を回避していくかが、(フリーランス化の)原動力になっている面があります。多様な働き方ということで、新しい問題に見えるのですが、こうした話は新しくもないのです。(不況でハケン切りなどが問題になった)派遣問題にしても、間接雇用を広げて、使用者責任を回避するという流れでした。

そもそも労働法の規制をどんどんなくしていこう、というのが今の政府の考え方に根強くあります。そういう流れの中にフリーランス問題もあると、考えなくてはならないでしょう。

●「やむを得ず、不安定な雇用を選択せざるを得ない面がある」

――クラウドソーシングなどで時間や場所が自由になる働き方が多くの人に開かれた面はあるのでは

場所や時間が自由な働き方が、フリーランスに限定する必要はあるのでしょうか。フリーランスという形態でないと自由になれないというのは、誤解があるのかな、と思います。

雇用契約でもフレックス勤務にするとか、在宅とか、部分的なパート契約とか、基本は雇用契約でやるということは不可能ではありません。そういう仕事がなくて、やむを得ず、フリーとか不安定な雇用を選択せざるを得ない面があると思います。

雇用であっても企業が努力すれば制度はできるのです。それをあえてフリーランスに外注したいというのは、雇用関係による束縛を企業側が避けたいということでしょう。切りやすいですから。それを自由な働き方というのは違うのではないでしょうか。

――そもそも、なぜフリーランスには労働法が適用されないのか

「フリーランスだから労働法が適用されない」のではなく、労働法でいう「労働者」に当てはまらなければ適用されないのです。つまり、フリーランスでも労働者だと判断されれば、労働法が適用されることになります。

労働者に当たるかどうかは、次のような「使用従属性」があるかどうかで判断されます。

・仕事の依頼、業務従事の指示に対する拒否の自由がない

・勤務時間、勤務場所の規律に従っている

・業務内容や遂行の仕方について指揮命令下にある

・報酬が(成果ではなく)労務に対して支払われる

このような場合は、「使用従属性がある」との裁判例が積み上げられています。つまり、労働者だと認められて労働法が適用される。たとえ請負で仕事をするフリーランス契約でも、会社に常駐していると労働者性が認められる、という判例もあるんですよ。

●労働搾取されないための注意点は?

――「業務委託で出社月給●万円」など、雇用契約のようなフリーランス仕事の募集もある

契約書の表題はあまり関係ありません。労働の実態に「使用従属性」が認められるのであれば、「労働者」として労働法が適用されます。その場合、企業側は労働基準法や最低賃金法などの関係法令を守らなければなりません。

企業は「業務委託契約にすれば(労働法の)規制は外れるんじゃないか」と考えているわけです。つまり、コスト削減の手法として業務委託にしてしまおうという意図が隠されている。

とはいえ、働き手が声をあげたり申告したりしないかぎり、明るみに出ません。仕事を受ける側も(違法行為だと)知らなくて、まかり通っている面もあるでしょう。

――労働搾取されないための注意点は

契約をきちんと結び、事前に書面で確認してから仕事に入ることが大切です。契約書では、業務内容、報酬、納期、入金、条件変更の場合などについて定めてください。契約書を結ぶことで、「ギャラが入金されない」「追加で要求がどんどんくるのに、報酬は変わらない」事態になっても、交渉がしやすくなります。

あとは、労働組合をつくるという方法はあります。労働組合法の「労働者」は、労働基準法などよりも、広い意味で解釈されています。労基法の適用されない働き手であっても、労働組合として保護される組合をつくれるのです。

プロ野球選手もその一例で、ある種のフリーランスですが、労働組合を作って団体交渉をしています。出版ネッツという、出版業界で働くフリーランスの組合などもあります。

――副業含めるとフリーランスが1000万人越えの時代。求められる法的アプローチは

フリーランスと言いながら、実態は使用者に従属して労働者的に働いている人たちがいます。彼らに労働法の適用を受けさせることが、まずは大前提です。また、使用従属性が必ずしも認められないフリーランスについても広く労働法適用の対象にしていくなど、検討を始める時が来ていると思います。

●連載のむすび

【連載のむすび(タキガワマイコ)】

これまで4回の連載を通じて、フリーランスの最新動向と課題をお伝えしてきました。

第1回 「会社勤めはイヤ」自由な働き方の裏側にある厳しい現実 https://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5696/

第2回 まるで「道具扱い」、買い叩かれるクラウドワーカーhttps://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5697/

第3回 「会社員前提」の壁、乗り越えるための繋がりを求めて https://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5698/

フリーランスという働き方は、インターネット環境の普及で身近になりました。ただ、現状では労働法の枠外にある以上、「自由」の一方で大きなリスクを伴うのも事実です。日本は今、高度成長期以来の終身雇用制度が崩れつつあり、個人も企業も国も、新たな働き方を求めさまよっています。フリーランサーが模索するネットワークは、安定と引き換えに拘束の厳しい企業体とも、どこまでも個を貫くフリーランスとも違います。ゆるやかな共同体に、これからの働き方が示唆されているのかもしれません。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

今泉 義竜
今泉 義竜(いまいずみ よしたつ)弁護士 東京法律事務所
2008年、弁護士登録。労働者側の労働事件、交通事故、離婚・相続、証券取引被害などの一般民事事件のほか、刑事事件、生活保護申請援助などに取り組む。首都圏青年ユニオン顧問弁護団、ブラック企業被害対策弁護団、B型肝炎訴訟の弁護団のメンバー。日本労働弁護団、青年法律家協会、自由法曹団所属。

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