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ゲーム会社サイバードで「裁量労働制」の不適切運用、どんな人に適用できる制度か?
裁量労働制

ゲーム会社サイバードで「裁量労働制」の不適切運用、どんな人に適用できる制度か?

ゲーム開発会社「サイバード」(東京都渋谷区)で、宣伝やイベント企画を担当していた女性について、渋谷労働基準監督署がこのほど、専門業務型の裁量労働制の適用を無効と判断し、同社に対して残業代を支払うよう是正勧告をおこなった。

女性は2016年からサイバードに勤めていた。雇用契約書などには裁量労働制の適用が明記されて、月約8万円の裁量労働手当は45時間分の残業代にあたるとされていた。人手不足から徹夜作業となることもあり、女性の残業はタイムカードにあるだけで月70時間程度に及ぶこともあったという。

是正勧告は8月14日付。サイバードは「裁量労働制の認識が不正確だった部分があった」としているが、そもそも、どんな人に裁量労働制が適用されるのだろうか。どんな条件だと、今回のケースのように「無効」とされるのだろうか。労働問題にくわしい竹花元弁護士に聞いた。

●「専門業務型」は19業務に限られている

「裁量労働制とは、一定の要件をみたす裁量的な労働に従事する労働者について、実際の労働時間にかかわりなく、一定の時間だけ労働したものと『みなす』制度です。

裁量労働制には(1)『専門業務型』裁量労働制と(2)『企画業務型』裁量労働制があります」

それぞれどんな制度なのだろうか。

「(1)『専門業務型』裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として、厚生労働省令によって定められた中から、対象となるものを労使で定めます。そして、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなすのです。

『専門業務型』は、19業務に限られており、事業場の過半数労働組合または過半数代表者との労使協定を締結することによって導入することができます。

19業務の中には、研究者、プログラマー、新聞・雑誌・テレビ等の記者、デザイナー、テレビ・映画のディレクター・プロデューサー、コピーライター、公認会計士、弁護士、一級建築士、不動産鑑定士、弁理士などが並んでいます。

注意すべきなのは、たとえば『プログラマー』であっても、当然に裁量労働制の対象になるわけではないことです」

●さらに厚生労働省が「厳しい条件」を課している

具体的にどういうことだろうか。

「裁量労働制の対象となるプログラマーは、次の条件をクリアする必要があります。

『(i)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(ⅱ)入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(ⅲ)システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること』

要するに、プログラムの設計や作成をおこなうだけのプログラマーは、『専門業務型』の対象ではないということです。

このように19業者すべてについて、厚労省が厳しい条件を課しています。なお、どのような条件を満たせば『専門業務型』の対象とできるかは、厚労省のホームページなどで見ることができます。

『専門業務型』の適用対象者の範囲は、労働者の職種や資格で明確に区分されているので、単に『プログラマーだから』『新聞記者だから』『テレビのディレクターだから』ということで、裁量労働制を適用できるわけでありません。

今回のケースのように、裁量労働制を適用できない労働者に裁量労働制を適用しても『無効』とされます」

●「企画業務型」は法律上の要件が厳しい

では、(2)「企画業務型」裁量労働制はどういうものだろうか。

「(2)『企画業務型』裁量労働制とは、事業運営上の重要な決定がおこなわれる企業の本社などで、企画や立案、調査および分析をおこなう労働者を対象とした裁量労働制です。

このように、比較的、一般的な定義とされているので、濫用を防ぐため、法律上の要件が『専門業務型』よりも厳しくなっています。

具体的には、労使の代表で構成される労使委員会の設置が必要です。裁量労働制の具体的な中身はすべて、この労使委員会の5分の4以上の賛成を得た『決議』で決められます。また、適用対象とされた労働者の『同意』も必要です。

このような要件も満たさない『企画業務型』も無効となります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

竹花 元
竹花 元(たけはな はじめ)弁護士 法律事務所アルシエン
法律事務所アルシエンのパートナー。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。人事労務や会社法務の経験を生かして、企業向けハラスメント防止セミナーやM&Aの法務デューデリジェンスも行う。東証プライム上場企業・非上場大手企業・医療法人・ベンチャー企業など、多くの業種・規模の企業で法律顧問を務める。労働法に関する書籍を23冊執筆。

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