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税務当局と富裕層の「節税いたちごっこ」は今後も続く…国税庁の対策強化をどうみるか
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税務当局と富裕層の「節税いたちごっこ」は今後も続く…国税庁の対策強化をどうみるか

租税回避行為に関する機密文書「パナマ文書」が公表されたことなどによって、富裕層や企業による「資産隠し」や「租税回避」への関心が高まっている。こうした中、国税庁は10月下旬、富裕層などへの課税強化の取り組みを公表した。

国税庁の発表によると、海外に5000万円を超える資産を持つ人に提出を義務づける「国外財産調書」を活用するなどして、富裕層に関する情報収集を強化する。このほか、2018年9月までには、100カ国以上の税務当局と互いの国の金融口座の情報を自動的に交換する制度の運用を始める。

さらに国内では、東京・大阪・名古屋の3つの国税局に設置している富裕層専門のプロジェクトチームを2017年7月から全国的に拡大する。メンバーは国際課税に精通した職員を中心に構成する。

「資産隠し」や「租税回避」といった行動をどう考えればいいのか。今回の対策にはどんな狙いがあるのか。李顕史税理士に聞いた。

●「節税スキームが巧妙化している」

「まず、税金を徴収する大原則として、課税の『公平性』というのがあります。

何をもって『公平』と考えるかは難しい問題ですが、現状の日本では、『年収は違っても同じ税率で課税するのは不公平』だと考えられています。

年間所得200万円の人に100万円の税金を課税し、年間所得1千万円の人に500万円課税するのは、可処分所得(使えるお金の額)に大きな差が出てしまい、不公平だと考えるのが自然です。

したがって、所得が高い人には相対的に高い税率をかけています(累進課税)。この累進課税が適用されているのは、所得税の他に相続税が挙げられます。

とはいえ、富裕層からしたら税金で自分の富を減らされたくないと考えるのが自然です。そのため、課税を回避するために海外に資産を移すなど、あの手この手で節税をしてきました」

李税理士はこのように述べる。その「節税」について、「資産隠し」や「租税回避」などと批判の声があがってるが、そもそも法的に問題はあるのか。

「パナマ文書も問題となりましたが、節税自体は違法ではありません。脱税は論外ですが、節税で課税を逃れたい心理が働くのは自然なことだと思います。

事実、課税したい税務当局と課税から逃れたい富裕層の間では、いたちごっこが続いてました。

過去には、アメリカ国債を利用した節税方法がはやったこともありました。現在では規制されていますが、親から子どもに一定の条件のもとでアメリカ国債を贈与すると、税金がかからない仕組みを利用していました。

現在では、アメリカ国債を利用した節税スキームは規制されました。ほとんどの仕組みやアイデアが規制されてるので、手口が巧妙化してきています。今までの税務当局の課税対策が不十分というよりも、新しい手口が編み出されてきたので、規制の網をかけようとしているに過ぎません。

海外への資産や租税回避については、富裕層からしたら自然な『経済的合理活動』といえるでしょう」

●「富裕層は、新たな節税の仕組みを作るだろう」

今回の国税庁の動きをどう考えればいいのか。

「パナマ文書など富裕層の節税行為が明らかになってきている中で、圧倒的多数の庶民が不満をもつのも当然といえるでしょう。そこで当局が規制に動いたというのが実態だと考えています。

国税庁の資料によると、国際税務の専門家の定員はここ10年でほとんど増えていませんでした。最近の節税方法は複雑なので、当局も専門チームを立ち上げて専門的にチェックしたり、海外の税務当局と連携したりするなどしないと、民間の知恵のある節税の仕組みを考えようとする人に太刀打ちできないと考えられます。

したがって、税務当局が組織的かつ専門的に対応するのもこれまた自然な考えだといえるでしょう。

節税をしたい富裕層は、今回の規制を受けて、新たな節税の仕組み作りをすると思います。そしてまた当局が規制する、いたちごっこは今後も続くでしょう。節税する富裕層が悪いとか、今まで対応しない税務当局が悪いとかいう問題ではなく、時代や環境の変化に応じて活動しているものと思います」

【取材協力税理士】

李 顕史(り・けんじ)税理士

李総合会計事務所所長。一橋大学商学部卒。公認会計士東京会研修委員会副委員長。東京都大学等委託訓練講座講師。あらた監査法人金融部勤務等を経て、2010年に独立。金融部出身経歴を活かし、経営者にとって、難しいと感じる数字を分かりやすく伝えることに定評がある。また銀行等にもアドバイスを行っている。2016年6月に「各種法人の?に答える 現場が知りたいマイナンバー実務対応」(清文社)を刊行。

事務所名   : 李総合会計事務所

事務所URL:http://lee-kaikei.jp/

(弁護士ドットコムニュース)

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