出演したアダルトビデオの流通を止めてもらえるのか−−。AV出演をめぐる問題が大きくクローズアップされるなかで、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、このような相談が投稿されていた。
相談者は、お金のためにAV出演を決意し、プロダクション(マネジメント会社)と契約を結んだ。撮影までは納得していたが、完成したDVDを見たらこわくなり、流通を止めてもらうようプロダクションにもとめた。
だが、プロダクションからは、契約で同意しているうえ、コストもかかっているので「できない」といわれたそうだ。このような場合、法的にAVの流通を止めることはできないのだろうか。高木啓成弁護士に聞いた。
●プロダクションとメーカーに同意してもらうしか確実な方法はない
「アダルトビデオは著作権法上、『映画の著作物』というあつかいになります。映画の出演者であるAV女優には、実演家の『著作隣接権』という権利が発生します。
実演家の著作隣接権には、自分の実演が撮影された録画物を頒布することを禁止する権利が含まれています。
ただ、今回の相談の場合、いったん許諾して『映画の著作物』に出演してしまった以上、その権利を行使することができません。また、AV女優とプロダクションとの契約でも、AV女優が著作隣接権を行使することができないように権利処理されています」
今回の相談のように、流通を止めることはできないのだろうか。
「昨年9月、『AV女優はAV出演契約をいつでも解除することができる』という裁判例が出ました。この裁判例によれば、たとえ出演契約の契約期間中であっても、AV女優は、プロダクションとの契約を解除して、その後の出演を拒否することができます。
ただ、ここでいう『解除』というのは、過去にさかのぼって契約が無効になるわけではありません。解除の時点から将来に向かって、無効になるということです。ですので、この裁判例によっても、今回の相談のように、いったん同意のうえで出演したAVの流通を止めさせることまでは認められていません。
したがって、法的権利として、撮影済みのAVの流通を止めさせることは難しいと考えられます」
では、流通を止めさせることは不可能なのだろうか。
「流通を止めさせるためには、プロダクションやメーカー(制作販売会社)に同意してもらうしか確実な方法がありません。
プロダクションやメーカーは、流通を止めることに同意する条件として、一定の損害賠償を要求してくると思われます。こちらに法的権利がない以上、基本的には相手方の言い値になってしまいます。
ですので、本当にAVに出演するかどうかは、後悔のないように、出演する前に真剣に考えてから決めなければなりません」
高木弁護士はこのように述べていた。