再審制度を見直す法改正をめぐり、自民党への対応に関する公文書を法務省が廃棄していた問題で、平口洋法務大臣は「意思決定過程の検証等に必要となる行政文書は別途、保管している」と新たな説明をした。
しかし、取材を進めると、この説明と整合しない点が浮かび上がった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●法務大臣「検証に必要な文書は別に保管」と説明
刑事裁判のやり直し「再審」制度を見直す刑事訴訟法改正をめぐり、自民党内の事前審査に関する公文書の開示を求めた情報公開請求に対して、法務省は「廃棄済み」を理由に不開示とする決定を出した。
その理由について、平口法務大臣は6月26日の閣議後会見で、こう説明した。
「保存期間を1年未満とする文書に該当するとの判断のもと、法令に従って廃棄済みであるとの報告を受けています」
ところが一転、6月30日の記者会見で、「内部検討資料の廃棄というのは、意思決定に関する文書の廃棄に当たらないのか」と問われると、平口大臣は新たな説明を加えた。
「お尋ねの開示請求については、自民党法務部会・司法制度調査会合同会議への提出用資料として保管されている文書を対象とする趣旨のものと理解して対応したという報告を受けています。 そのうえで、刑事訴訟法の一部を改正する法律案の修正の過程を含む同法律案についての法務省における意思決定過程の検証等に必要となる行政文書については別途、保管しており、たとえば、各段階における法律案、それに係る新旧対照条文などを保管しているという報告を受けています。 そのうえで、これらの行政文書については、お尋ねの開示請求の対象には該当しないと判断したと報告を受けています」
つまり、自民党議員への「提出用」の資料は廃棄したが、「検証」するための文書は別に残している、という言い分のようだ。
●配布資料には「対照表」が含まれていた
しかし、自民党の会議で配布された資料を弁護士ドットコムニュースが確認したところ、自民党内の要求を受けて修正が重ねられた法案について、修正前後の条文を比較した対照表や、法案の概要をまとめた文書が含まれていた。
いずれも、法案の意思決定過程の一端がわかる資料といえるが、法務大臣の説明によると、これらは「廃棄済み」だという。
一方で、法務大臣が保管している例として挙げた「各段階における法律案」や「新旧対照条文」が、自民党内で修正が重ねられた各段階を反映したものを指すのであれば、会議で配布された資料と内容が重なる可能性がある。
仮にそうだとすれば、会議資料については「作成していない」(のちに「廃棄済み」と訂正)としながら、その修正内容を反映した文書は保管していることになる。その場合、修正内容を別の文書に反映するたびに、元の資料を廃棄していたということなのだろうか。
法務大臣の説明だけでは判然とせず、整合性にはなお疑問が残る。
再審制度の見直しに関する公文書を法務省が廃棄した経緯と対応状況(弁護士ドットコムニュースが作成)
実際、弁護士ドットコムニュースは、自民党の会議が続いていた4月、「法務省が2026年に自民党の法務部会や司法制度調査会で示した資料・文書の全て」の開示を請求した。
しかし、法務省は「作成又は取得しておらず、保有していない」(その後、口頭で「廃棄済みだった」と訂正)として、不開示決定を出している。
●NHKが開示文書に言及、弁コムの請求には「作成していない」
情報公開への対応にも、不可解な点がある。
6月18日夜に放送されたNHK「時論公論」で、再審制度の見直しに関して、法務省が開示したという文書が映し出された。
番組で、清永聡解説委員は「法務省は国会議員に個別に説明する活動も続けていました。そこで私は、情報公開請求をして、国会議員へ説明していた際の文書の公開を求めました」と説明。
そのうえで、「法制審議会における議論状況」と題する文書を示した。
弁護士ドットコムニュースも4月に、「再審制度に関する刑事訴訟法改正案について、法務省が2024年以降に自民党の国会議員へのロビイングで使用した資料・文書・メール」という内容で、開示請求した。
しかし、法務省は「作成又は取得しておらず、保有していない」と不開示を決定した。
●法務省幹部の「ロビー活動」、報道されても「該当文書なし」
弁護士ドットコムニュースが「ロビイング」と記載して請求したのには理由がある。
複数の大手メディアが、再審法改正をめぐり、法務省幹部が自民党議員らへの「ロビー活動」をおこなっていると報じていたためだ。弁護士ドットコムニュースの取材でも、法務省職員が議員会館まで説明に訪れていたと証言する国会議員がいた。
5月13日付で法務省から送られてきた不開示決定通知書(一部を加工しています。弁護士ドットコムニュース撮影)
それにもかかわらず、NHKに開示された文書が、なぜ弁護士ドットコムに開示されなかったのか。
法務省に問い合わせると、2日後、刑事局刑事法制管理官室の担当者から、次のような回答があった。
「請求に該当するという文書については、それを作成または取得していないという整理をさせていただいた。NHKのことについては、報道機関の取材活動に関わるので詳細をお答えすることは難しいが、その時点においては対応させていただいた」
これに対して、筆者が「法務省側は、国会議員への説明を『ロビイング』と捉えていないということか?」と尋ねたが、担当者は同様の説明を繰り返した。
●「廃棄」「作成していない」──法務省の対応に残る疑問
外部の人間にとって、行政がどのような文書を保有しているのかを正確に把握することはできない。
そのため、情報公開請求では、入手したい文書の内容や特徴をできる限り具体的に記載し、行政側に該当文書の有無を確認してもらう。該当しそうなものがあれば、その文書名を教えてもらうことで、実際に請求するかどうかを決める。
少なくとも、筆者が日常的におこなっている手続きでは、そうした対応が一般的だ。
だが、今回の法務省の対応は、存在する可能性がある公文書についても、請求の趣旨が十分に考慮されないまま、「廃棄した」や「作成していない」と不開示になる運用がおこなわれているのではないかとの疑問を抱かせる。
そして、これは、まさに国会で議論されている再審制度の見直しとも無関係ではない。
●「再審の証拠開示」と「情報公開請求」、重なる構図
法改正の大きな論点の一つが、再審請求事件における「証拠の開示」だ。
これまでの再審事件では、弁護人の請求に対して検察が「該当する証拠はない」と説明した後、有罪認定を揺るがす証拠が見つかったケースや、被告人に有利な証拠が意図的に隠されたケースが指摘されている。
その結果、冤罪の被害者は長年苦しみ、無実を晴らせずに亡くなった人もいる。
そもそも弁護人には、検察がどのような証拠を保有しているのかを把握する手段が限られており、証拠開示そのものが大きなハードルとなっている。
情報公開請求に対する法務省刑事局の一連の対応を目の当たりにすると、「行政がどんな文書を持っているのかは行政しかわからない」という情報公開の構図と、「検察がどんな証拠を持っているのかは検察しかわからない」という再審事件の構図が重なって見える。