自宅にゴキブリが出たため、グーグルで駆除業者を検索したところ、広告で見た料金とはケタ違いの金額を請求された──。
京都市に住むAさんのケースだ。検索結果に表示された「駆除費用550円〜」という広告が目に留まり依頼したところ、業者が自宅で作業を終えた後、請求されたのは14万円だった。
「表示金額とあまりにかけ離れている」。そう感じながらも、駆除が終わった以上は払うしかないと考え、Aさんは14万円を支払った。
しかし納得できず、消費生活センターに相談。クーリング・オフ通知も送ったが、業者からは何の返答もなかった。
●「レスキュー商法」の一類型とみられる
こうした害虫駆除トラブルが全国で相次いでいる。国民生活センターによると、害虫・害獣駆除サービスに関する相談件数は2018年度の35件から2024年度は859件へと、約25倍に膨れ上がった。
相談のきっかけの多くは、検索結果の上位に表示される「格安料金」の広告だという。
水回りや鍵開けなど、生活上の「困った」につけ込むレスキュー商法の一類型として、内閣府消費者委員会も2025年8月、対策を求める意見を公表するなど、社会問題となっている。
「◯◯円〜」という安さに引かれて依頼したはずが、なぜ高額請求に変わるのか。一度支払ってしまったお金は取り戻せるのか。
冒頭のケースでは、レスキュー商法被害対策京都弁護団の交渉により、14万円は全額返還された。同弁護団の住田浩史弁護士は「ゴキブリ出ても検索するな」と語る。被害の実態と対処法を聞いた。
●そもそも「数百円」で成り立つはずがない
住田弁護士は、広告でうたわれる「安さ」そのものに、からくりがあると指摘する。
検索結果の上位に表示される広告は、リスティング広告(検索連動型広告)を掲載するだけでも相応の費用がかかる。
「数百円をうたっていても、その金額では広告費すら到底回収できません」
つまり、安い金額はあくまで消費者を呼び込むための“入り口”にすぎず、実際には高額請求につなげることを前提とした仕組みだという。
こうした構造を知っておくこと自体が、「自衛」につながる。そのうえで、支払ってしまった場合でも返金は可能なのだろうか。
●最初は無視していた業者→弁護士の交渉で返金
──今回のケースでは、「550円〜」という広告にもかかわらず14万円を請求され、いったん支払った後に全額が返還されました。どのような法的根拠で返金が実現したのでしょうか。
今回は訪問販売にあたるため、特定商取引法9条に基づき「クーリング・オフ」ができました。
相談者は、消費生活センターからの助言を受けて、期限内に文書とメールでクーリング・オフの通知を送っていたのですが、業者は文書を9日間受け取らず、メールも無視していました。
そこで相談を受けた弁護士が依頼を受け、集客サイトの公式LINE(唯一連絡が取れる手段でした)に登録して交渉した結果、全額の返金が実現しました。
●ゴキブリ駆除が終わっていてもクーリング・オフできる
──検索して見つけた業者を自宅に呼んだうえ、ゴキブリも駆除してもらったのにクーリング・オフできるのでしょうか。
そう疑問に思う人もいるでしょう。
ただし、今回のケースでは、広告の表示額と実際の請求額との間に大きな開きがありました。
消費者は、業者を呼んだ時点では、広告に表示された安価な料金で契約するつもりであって、実際の14万円という金額で契約する意思までは持っていませんでした。
そのため、特定商取引法26条6項1号の「請求した者」にはあたらず、適用除外の対象とはなりません。つまり、クーリング・オフができるわけです。
この考え方は、消費者庁のウェブサイト「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」にも記載があります。
●悪質業者が狙うのは「冷静さ」を失った消費者
──害虫駆除や水回り、鍵開けなどのレスキュー商法の被害を防ぐには、どうすればいいでしょうか。
レスキュー商法は、人間の「困った状況」につけ込む商法です。
人は困った状況になると、「何とかこの状態から脱したい」と懸命になります。その結果、視野が狭くなり、冷静で合理的な判断ができなくなります。これが悪質業者の狙いです。
予防のためには「困ったときにどうするか」を、困る前に考えておくことが大事です。
たとえば、漏水なら止水栓の場所や止水方法を確認しておく。トイレ詰まりならラバーカップなど応急処置の道具を備えておく。賃貸住宅なら管理会社の連絡先をすぐ確認できるようにしておく。事前にできることは少なくないはずです。
──高額請求されてしまった場合、まず何をすべきですか。
高額請求を受けた場合、多くの人は簡単に抗えません。
先ほども触れましたが、「自分が呼んだ業者が作業をし終えたのに、お金を払わない」という判断はなかなか難しいものです。
「おかしい」「高すぎる」と思いながらも、その場を収めるために支払ってしまう人がほとんどでしょう。一人暮らしの高齢者や若年者ならなおさらです。
もちろん、支払わないのが最善ですが、それができなくても、「自分は馬鹿なことをしてしまった」と落ち込む必要はありません。
多くの場合、まず取るべき行動は、すぐに「188」(消費者ホットライン)へ電話して、消費生活センターに相談することです。クーリング・オフなど、状況に応じた対応を案内してもらえます。
●根本にはプラットフォームの問題もある
もう一つ、本質的な問題があります。
このようなレスキュー商法を可能にしている背景には、悪質業者から多額の広告費を吸い上げているGoogleなどの超巨大広告プラットフォームの存在があることを、内閣府消費者委員会も2025年8月の意見書で指摘しています。
事態は極めて深刻です。「消費者がもっと注意すべき」で済まされるものではありません。個々の消費者の注意力や勇気ある行動だけに期待するには限界があります。
この仕組みそのものに手を入れなければ、悪質業者はまさにゴキブリのように、いつまでも増え続けるでしょう。