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就活中の無断録音は「違法性なし」でハラスメント立証の決め手…「一般公開」には要注意
写真はイメージです(mits / PIXTA)

就活中の無断録音は「違法性なし」でハラスメント立証の決め手…「一般公開」には要注意

来春からの就職を目指し、既に内定を得た一部の学生を除いて、学生は懸命に就職活動を続けている。そんな学生たちが注目しそうな記事が、読売新聞朝刊(6月18日付)に載った。学生が面接官とのやりとりを無断録音するケースが増えている、というものだ。

記事では、学生が「聞き直して改善点を見つける」ために録音しているが、大学によっては「マナー違反」と指導しており、さらに弁護士による「SNS公開するとプライバシー侵害などで賠償請求される恐れがある」とのコメントなども紹介されている。

この記事を受けて、ネットでは「ハラスメントを受けた際に重要な証拠となるから、録音ができないというのはおかしい」などの指摘が相次いだ。こうした点について、竹花元弁護士に聞いた。

●無断録音する行為自体は法的に問題なし

ーー無断で録音する行為の違法性はどう考えられますか

「話す人の承諾を得ないで行う録音を、一般的に、『無断録音』や『秘密録音』などといいます。無断録音の違法性については、(1)無断録音を行うこと(2)無断録音した音声を一般に公開することを分けて考える必要があります」

ーー(1)の「無断録音を行うこと」はいかがですか

「まず、無断録音を行うこと自体は違法ではありません。就活中に企業の担当者とのやり取りや面接の様子を無断録音しても、それ自体は法的に問題のない行為です。また、後で述べるように、無断録音した音声を証拠として、交渉や訴訟などでハラスメントを立証することも法的に問題ありません」

ーーそれでは(2)の「無断録音した音声を一般に公開すること」はいかがですか

「無断録音した音声を一般に公開すると、話した人や企業が特定できる場合には、法的な問題が生じることがあります。具体的には、公開した録音内容が話す人や企業の社会的評価を低下させる場合には、名誉棄損が成立する余地がありますし、社会的評価を低下させない場合でも、プライバシーの侵害に当たる余地があり、不法行為が成立する可能性があります。

『公開することが公共の利害に関係するか』『公開する目的が専ら公益を図ることにあるか』という視点で考える必要があります」

●企業側は無断録音をやめさせることはできない

ーー強い立場を利用した就活中のセクハラや、内定を出すと同時に他社選考の辞退を強要する「オワハラ」が問題視されていますが、無断録音による音声データはどのような意義があるでしょうか

「録音は、ハラスメントを立証するための非常に重要な証拠です。パワハラやセクハラの違法性を問う裁判においては、ハラスメント言動の存在を被害者側が立証する必要がありますが、無断録音やそれを書き起こした資料が証拠としてしばしば提出されます。

基本的に、無断録音であるから証拠としての価値が否定されることはありません。むしろ、ハラスメント言動の直接的な証拠である録音は、多くの事件で立証の決め手になります」

ーー企業側は、無断録音をやめさせることはできるのでしょうか

「企業側が無断録音をやめさせることはできないと考えるべきでしょう。たとえ、就活面接の際に『録音禁止』というルールを周知しても、そのルールに反して録音した音声も証拠として機能します」

ーー企業側には緊張感を持った就活対応が求められそうですね

「はい。現代は、スマートフォンなどの機器で、いつでも、誰でも、録音ができる時代です。ハラスメント音声がニュースで流れた組織が、社会的に強い非難を受けたり、謝罪会見を行うことも目立っています。今やハラスメント対策は企業の存続にかかわる問題です。

ハラスメントが起こらない職場を作ること、ハラスメント生じた場合にはそれを早期に解決を図れる職場を作ることが何より大切です。録音を禁止する姿勢は、ハラスメントの予防にも、ハラスメント問題による企業ダメージの回避にも、役に立ちません。企業は、採用活動中においても、稼働開始後においても、録音されていても問題がないような言動をとることを徹底するべきでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

竹花 元
竹花 元(たけはな はじめ)弁護士 法律事務所アルシエン
法律事務所アルシエンのパートナー。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。人事労務や会社法務の経験を生かして、企業向けハラスメント防止セミナーやM&Aの法務デューデリジェンスも行う。東証プライム上場企業・非上場大手企業・医療法人・ベンチャー企業など、多くの業種・規模の企業で法律顧問を務める。労働法に関する書籍を23冊執筆。

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