仕事中の喫煙を全面的に禁止しようという動きがある。日本経済新聞(3月19日)などによると、ソフトバンクでは社員の健康増進のため、社員の禁煙を段階的に進め、2020年4月には外出先も含めた就業時間中の喫煙を全面的に禁止することを発表したという。
「仕事中こそ吸いたくなるのに」「集中力が上がる」という喫煙者にとっては、厳しい措置といえそうだ。
「喫煙者の一服は許されるのに、なぜ非喫煙者には一服の時間はないのか」。これまでも、仕事中の「喫煙タイム」に対する不満は少なくなかった。
「タバコ休憩で15分戻らなくても何も言われないのに、ネットサーフィンをしていると怒られるのはなぜですか」。「喫煙者の方が非喫煙者よりも休憩をとっている気がする」。「喫煙者のタバコ休憩が許されるならば、非喫煙者にも休憩をください」。
今でもこのような声がネット上に上がっている。
そもそも、仕事中の「喫煙タイム」は「休憩時間」になるのだろうか。労働問題に詳しい上林佑弁護士に聞いた。
●ポイントは「労働から完全に解放」されているかどうか
「労働基準法34条1項は、『使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を、労働時間の途中に与えなければならない』と規定しています。
この『休憩時間』とは、労働者が、労働から離れることを『権利として保障されている時間』を意味しており、その他の拘束時間は、労働時間として取り扱うこととされています(昭和22.9.13都道府県労働基準局長あて労働次官通達発基17号)。ですから、デスク前などにいて仕事の態勢にはあるけれども、単に作業をしていないような『手持ち時間』は、休憩時間には含まれません」
ということは、席を外して上司の指示の来ないところへ行く、というのは、ほんの数分でも「休憩時間」に入るのだろうか。
「労働基準法第34条1項の休憩時間については、分割して付与してもよいとされています。ただ、どの程度、継続した時間を与えれば休憩時間といえるのかということに関しては、規定や行政解釈はありません。
たとえば、『ほんの数分』というのが、具体的には1、2分であるという場合、そのような短時間ではほとんど何もできず、自由に時間を利用することができないため、労働から解放されていると評価されない可能性はあります。しかし、数分であっても、『労働から完全に解放されていること』が保障されていれば、『休憩時間』といえるでしょう」
では、タバコ休憩も、れっきとした「休憩時間」になる、ということだろうか。
「はい。たとえば、喫煙室で一服するために席を外すことを会社が了解している場合について考えてみましょう。労働者が一服から戻ってくるまでは、特に業務上の指示等を受けることがなく、労働からの解放が保障されている場合には、法的には、タバコ休憩も『休憩時間』に該当すると評価し得ます。トイレ休憩も、同じと言えば同じでしょう」
●長時間すぎるタバコは「職務専念義務違反」の可能性も
しかし、タバコやトイレで、数分~10分程度の時間をいちいち管理するのは難しそうだ。
「会社がこのような細切れの時間を休憩時間であると考え、労働時間の管理を行うことは、大変な手間となります。そのため、現実にはこのような労働時間の管理は、多くの場合行われていないものと考えられます」
これをいいことに、中には「喫煙所に行くと20分ほど帰ってこない社員」や「20分ごとに10分近くタバコを吸いに行く社員」などもいるようだ。ネット上には、このような社員に対する批判も少なくない。
「労働者は、勤務時間中、職務に専念する義務を負っています。喫煙するために無断で職場を離れることが多いなど、その行動が目に余るような場合には、職務専念義務違反を問われるでしょう。会社から注意・指導がなされたり、懲戒処分を受ける可能性もあります。喫煙する方は、会社の了解を得るなど、常識の範囲で行動していただくとよろしいかと思います」
ソフトバンクのように、就業時間中を全面禁煙にした場合、隠れてタバコ休憩をとったときに処分を受ける可能性はあるのか。
「そうですね。会社が明確に禁止している事項に反するものですので、会社から注意・指導がなされたり、場合によっては懲戒処分を受けるリスクはより高くなると思いますので、やめた方がいいでしょう」