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大林組の談合防止策「同業者がいる飲み会ダメ。同窓会でも話すな」、弁護士「不当な制限だ」と批判
大林組の本社がある品川インターシティ(kawamura_lucy / PIXTA)

大林組の談合防止策「同業者がいる飲み会ダメ。同窓会でも話すな」、弁護士「不当な制限だ」と批判

リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件で起訴された大林組は5月14日、「再発防止策」として、他のゼネコンが出席する飲み会に役員や社員が参加するのを禁止すると発表した。大学の同窓会で、ライバル社と仕事に関する話をするのも禁止対象だという。

朝日新聞などの報道によると、業界団体である日本建設業連合会(日建連)や不動産会社など発注者が主催する懇親会は、事前報告があれば参加できる運用にする。それ以外の場合は、ライバル社の役員や社員がいれば参加できない。

NHKは、「この事件で、大成建設、鹿島建設、大林組、清水建設は東京地検特捜部から独占禁止法違反の罪で起訴され、4社による工事の不正な受注調整は飲食店の会合などで行われていたという」と報じた。

とはいえ、例えば勤務時間外に、建設工事の受注に関わりがない部門の社員が、学生時代から親しくしているライバル社の友人たちと飲み会をすることが制限されるとしたら、会社による不当な干渉にならないだろうか。ゼネコン大手に勤務経験がある今田健太郎弁護士に聞いた。

●勤務時間外のプライベートな行動、制限するのは不当

ーー今回の対策についてどう思いますか

「法律的観点からみた場合、会社は、特段の事情がない限り、社員の勤務時間外のプライベートな行動について制限することは出来ません。

したがって、大林組が、談合の再発防止策という目的があるとはいえ、社員らによる同業他社の社員との飲み会を一律に禁止することは、社員らの自由な活動を著しく制限するものであり、法的には、相当性を欠くものと考えます。

よって、仮に、会社が、社員による命令違反があったとして、懲戒処分を行った場合、その処分は法律的に無効と判断される場合もありうるでしょう」

ーー談合をなくす本質的な対策とは思えないのですが

「今回のケースでは、社会的耳目を集める大きな事件となったため、大林組としても、厳しい再発防止策を世間に向けて示すことを余儀なくされたという点は理解できますが、そもそも、私的な同業者との飲み会を禁止することによって、談合がなくなるというものではありません。

また、メールのチェックや社内通報なども徹底するとの記事も出ていますが、このように、社員の行動を、逐一徹底して監視する仕組みを構築することは、社員のモチベーションを低下させるだけでなく、『禁止されている事項』以外の方法ならば許されるのでは、という反対解釈のもと、いたちごっことなる危険を伴います」

●重要なのは「業界の意識改革」と「企業体質の改善」

ーーどういったことが重要だと思いますか

「重要なことは、未だ古き慣行に支配されている業界全体の意識改革であり、談合のリスクを冒してまでも利益を追求する企業体質の改善に尽きます。よって、発注者である官公庁等を含めた談合防止のための定期的な協議会の開催や入札方式の検討、さらには、社内的には、管理職を中心とする徹底した法令遵守の教育や啓蒙活動が肝要であると考えます」

ーーゼネコン入社前からの友情関係にまで会社が制限をかけているようです

「私自身も、ゼネコンに在籍していた経験がありますが、学生時代から長く付き合っていた親友も、他社にいました。

また、JV(共同事業体)などで厳しい工事を乗り越えた仲間とは、企業の垣根を越えて一生の付き合いとなることもありますし、若手にとっても、最新の技術などの情報交換を行うことによって切磋琢磨し合える良きライバルの存在は成長の糧にもなります。

このような大切な仲間と顔を合わせる機会を不当に奪うことは、およそ本末転倒であり、付け焼き刃的な対応と言うほかありません」

ーー個人の自由を不当に制限しているということでしょうか

「本質的には、業界、ひいては社会全体で取り組むべき問題であり、勤務時間外の飲み会など、一社員の行動自体は、個々人の自律的な節度に委ねるべきですから、今回の大林組の措置は、およそ不当に個人の自由を制限するものとして、法的には不相当であると考えます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

今田 健太郎
今田 健太郎(いまだ けんたろう)弁護士 弁護士法人あすか広島事務所
広島県出身。一橋大卒。大手ゼネコン勤務。広島簡易裁判所民事調停官(非常勤裁判官)。平成25年度広島弁護士会副会長。現在、日弁連災害復興支援委員会副委員長。「2010 頼れる身近な弁護士 全国103名リスト」遊学社掲載。広島大学法学部講師。東広島市入札監視委員等歴任。

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