「私の姉ウィシュマが名古屋入管で亡くなってから、5年4カ月が過ぎました。一日たりとも姉のことを思わなかった日はありません。優しく聡明で、明るく楽しい姉ともう二度と会えないということが、今でも信じられません」
名古屋入管で収容中に亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の死をめぐり、国の責任を問う訴訟が7月22日、名古屋地裁で結審した。
提訴から4年以上。遺族は国家賠償法に基づき、約1億5000万円の損害賠償を求めている。この日の法廷では、妹のポールニマさんが涙をこらえながら意見陳述に立ち、亡き姉への思いを語った。
裁判の最大の争点は、体調悪化を訴え続けたウィシュマさんを外部医療につなげず、仮放免もしなかった入管の対応は適切だったのか。遺族側は「救える命だった」と主張する一方、国側は「医師の判断には合理性があった」と反論している。
結審後の記者会見で遺族の弁護団は、真相解明につながる証拠開示や証人尋問が不十分だった点があるとした。判決は12月11日に言い渡される。(ライター・小川たまか)
●「日本の医療はそんなに水準が低いのですか」
この日の法廷では、ポールニマさんが意見陳述したほか、スリランカにいる母親スリヤラタさん、妹のワヨミさんの意見陳述も代理人が代読した。
遺族側代理人の児玉晃一弁護士は、ウィシュマさんの1度目の仮放免申請が「立場を理解させ、帰国を説得する必要がある」として不許可になったこと(入管庁の最終報告書)を改めて問題視した。
1度目の仮放免申請の頃には、ウィシュマさんの体調はすでに深刻な状態だった。
ウィシュマさんは2020年8月に交番に出頭して逮捕され、同月から名古屋入管に収容された。翌2021年1月4日に仮放免を申請したが、その数週間後から体調不良を訴え始める。
1月28日には嘔吐や吐血があり、2月15日の尿検査では基準値を超える数値が確認されたが、その翌日に仮放免申請は却下された。
遺族側は、この尿検査の結果は飢餓状態を示しており、この時点で血液検査や外部医療機関での診療などにつなげるべきだったと主張している。
一方、国側は死因は特定できず、尿検査の時点でも直ちに血液検査などをおこなうべきだったとは言えず、当時の医師の判断には医学的合理性があったと反論している。
遺族と弁護団
児玉弁護士は意見陳述でこう訴えた。
「これが突然の疾患で命を落としたならまだわかる。体調不良を訴えてから亡くなるまで何十日もあった。十分に時間はあった。
日本の医療はそんなに水準が低いのですか。周りに何人も職員がいて、どれだけウィシュマさんが無念だったか」
2月22日に2度目の仮放免申請がおこなわれた後も体調は回復せず、3月6日、搬送先の病院で死亡が確認された。
●「組織的な過失についても判断されるべき」
裁判では、施設内の監視カメラ映像の開示も大きな争点となった。
遺族側は約295時間分の映像の全面開示を求めたが、実際に開示されたのは、約5時間分にとどまった。
開示映像には、死亡11日前、ウィシュマさんが「病院持って(連れて)行って。お願い」と訴える一方、職員が「私、権力ないから」などと取り合わない様子などが記録されていた。
一方、国の最終報告書では、死亡5日前に職員が「鼻から牛乳」とからかったり、死亡前日に食べたいものを聞かれ「アロ…」としか答えられないウィシュマさんに対して「アロンアルファ?」と応じたとされるが、開示映像には含まれていなかった。
遺族側の記者会見の様子
遺族側代理人の駒井知会弁護士は記者会見で、当時の名古屋入管の局長や職員の証人尋問を最後まで粘り強く求めたものの、認められなかったと話した。
「これだけの重要な証人を採用しないで、こちらを負けさせることはあってはならない。(入管の)組織的な過失についてもきちんと判断されるべき事案ですし、していただけると信じています」
遺族側は、医師や職員個人の対応だけではなく、仮放免を認めなかったことなど、入管組織全体の判断に問題があったと主張する。ただ、指宿昭一弁護士は「裁判所がどこまで踏み込んだ判断をするのかはわからない」と話した。
●「国の姿勢はかなり不誠実だった」
上林惠理子弁護士は、国側の訴訟対応についても厳しく批判した。
「国側が出すべき資料を出さずに死因がよくわからないと言ってみたり、栄養が足りていたとしながらそれを示す数字は出さなかったり。
そういう中で、こちらが言い続けていることについては立証できていないとする姿勢については、かなり不誠実だと感じています」
そのうえで「最終報告書で検証しきれなかった部分があるわけですから、(国側は)訴訟で立証と情報提供を尽くし、何が問題だったかという判断を裁判所と国民と報道機関に委ねるべきだったと思います」
ウィシュマさんの死亡をめぐっては、遺族が2021年11月、当時の名古屋入管幹部ら13人を殺人などの容疑で刑事告訴したが、名古屋地検は2022年6月に全員を不起訴とした。
その後、検察審査会は「不起訴不当」と議決したものの、2023年9月に再び不起訴となっている。
国家賠償訴訟の判決は12月11日に言い渡される。