東京・池袋の商業施設「ポケモンセンターメガトウキョー」で女性店員が刺殺された事件で、警視庁が7月29日、事件直後に自分で首を刺してその後死亡した男性を書類送検したことが報じられました。
報道によると、死亡した男性は、ストーカー規制法にもとづく禁止命令が出ていたにもかかわらず、3月26日、ポケモンセンターで勤務中だった女性(当時21歳)に近づき、首や腕を何度も刺し、死亡させた疑いが持たれています。
すでに被疑者が死亡してしまった場合でも、書類送検することに「意味があるのか」といった声もみられます。簡単に解説します。
●捜査をしたら検察に送るのが原則
警察は、捜査した事件を「速やかに」検察官に送らなければなりません(刑訴法246条)。
ごく軽い事件についての微罪処分などの例外はありますが、殺人はこのような例外にはあたりません。被疑者が死亡していても同じです。
もっとも、死亡した人を刑事裁判にかけることはできません。刑罰を科す相手がいないからです。そのため検察官は起訴できず、通常「被疑者死亡」を理由に不起訴とします。
●不起訴でも、遺族にできることはある
一つは被害者等通知制度です。検察庁は、希望した遺族に、事件の処理結果や不起訴の理由の概要を通知します。しかし、検察官に事件が送致されなければ、そもそも処理が始まりません。
もう一つは記録の閲覧です。殺人罪は、遺族が刑事裁判に参加できる罪です(刑訴法316条の33第1項1号)。こうした事件では、実況見分調書などの客観的な証拠の閲覧が認められます。検察庁に記録があって初めて、この申請ができます。
もっとも、関係者の供述調書は原則として開示されません。
●検察官が処分を決め、記録が残る
今回の容疑には、殺人だけでなくストーカー規制法違反も含まれています。禁止命令が出ていたのに事件を防げなかった経過も、捜査の対象です。
検察官は、送られた記録を読むだけの立場ではありません。
必要と認めれば自ら捜査できますし(刑訴法191条1項)、警察の捜査に足りないところがあれば補ったうえで、処分を決めます。
被疑者が死亡していても、この手続を経ることで、事件の全容が公的な記録として確定し、保存されることになります。
なお、警察には、ストーカー事案で重大な結果が生じた場合に、相談への対応が適切だったかを内部で検証する仕組みがあります。
これは警察内部の取り組みで、送検によって動くものではありませんが、こうした検証や再発防止の議論に確かな裏付けを与えるのは、きちんと尽くされた捜査と、そこで固められた事実です。
すでに死亡している人を送検することは、決して無意味な手続ではありません。事件がなぜ起き、なぜ防げなかったのかを後から検証できるように、その出発点となる記録を残すということは重要だと思います。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
※8月3日13時10分 誤字を訂正しました。