ただでさえ都心部の通勤ラッシュは過酷なのに、悪天候や事故、故障などで遅延するのは日常茶飯事だ。2〜3分の遅延であればまだしも、就業時間に間に合わない人もでてくるはずだ。そんな時に味方となる「遅延証明書」だ。
遅延証明書を会社に提出すれば、遅刻と認定されないなどの効果はあるのだろうか。また交通機関によっては日々、遅延が発生する沿線もあるだろう。そんなケースでは連日、遅延証明書を提出して遅刻する従業員を、会社が処分することもあり得るのだろうか。古屋文和弁護士に聞いた。
●「遅延証明書」の法的効力は?
「はじめに、遅刻した場合に法的にどのような状況になるかについて考えてみましょう。従業員が遅刻をした場合、会社は『ノーワーク・ノーペイの原則』(労働に従事しなければ、労働の対価である賃金が支払われないという原則)に従って、遅刻をした時間分の賃金を支給しないことが認められます。
ただし、実際に遅刻した時間分の賃金を減額するかは、、会社の就業規則でどのように規定しているかによって取り扱いが異なるでしょう。なお、従業員に対して注意をしたにもかかわらず遅刻が続く場合、会社としては、普通解雇や懲戒処分をすることも考えられます」
「遅延証明書」を会社に提出すると、遅刻と認定されないなどの効果はあるのか。
「遅延証明書の法的効力としては、遅刻の理由を証明するための証拠になるということが挙げられます。遅延証明書の提出により交通機関の遅延によって遅刻したことが明らかになったとして、それを会社がどう扱うかは、それぞれの会社の就業規則の内容によって決まります。
例えば、遅延証明書の提出があれば遅刻に対して特別のペナルティを科さないという取り扱いもあるでしょう。あるいは、遅延証明書を提出しても、遅刻の上限回数を超える場合には一定のペナルティを科すという取り扱いも考えられます。
よって、従業員としては、会社の就業規則の内容をよく確認しておく必要があります」
●連日、遅延証明書を提出して遅刻する従業員がいたら?
例えば、遅延証明書があれば特にペナルティがないことを逆手にとって、遅延証明書を提出して連日遅刻する従業員がいたらどうか。
「この点も、各会社の就業規則の内容次第です。仮に、遅延証明書により一定の範囲で遅刻を許容する会社であったとしても、遅刻の頻度、遅刻時間の長短及び注意に対する改善状況等によっては、懲戒処分等の対象となり得ます。
ただし、懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分であるため、懲戒事由としても企業秩序を大きく乱したといえる事情が必要です。
よって、遅刻を繰り返したことだけを理由とする懲戒解雇が有効とされるためには、単に遅刻が続いていたというだけでは不十分です。その従業員の遅刻によって、職場の士気が大きく下がっているなどの別の事情が必要となります。
実際には、遅刻が原因となって懲戒解雇までなされるケースは多くはないと思いますが、遅延が生じやすい交通機関を利用している場合は、遅延する可能性をできるだけ考慮に入れて、余裕をもって通勤することが望ましいと思います」