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医療労働者「連続勤務」「サビ残」常態化、弁護士「徹夜で手術後、過労事故死も」
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医療労働者「連続勤務」「サビ残」常態化、弁護士「徹夜で手術後、過労事故死も」

医師や看護婦など、医療労働者の「連続勤務」や「サービス残業」といった労働環境の過酷さが指摘されている。日本医労連が2015年に実施した調査でも、6割近くの医療労働者が患者の情報収集などで、始業前に1時間以内の仕事をしていることがわかった。また終業後も、約7割が残業していた。

調査は2015年10〜12月にかけ、日本医労連に加盟している労働組合の組合員ら約1万2500人を対象に実施。回答者の半数が看護職で、リハビリなどの医療技術職が約30%、医師は3.9%だった。

調査では、始業前に仕事をしていると答えた人のうち、7割以上が「時間外労働として請求していない」と回答していた。請求しない理由については、25.3%が「請求できない雰囲気がある」、10%が「請求できると思わなかった」としている。日本医労連の試算によると、医療労働者の未払い残業代は、平均で月6万6000円以上になるという。

医療労働者の残業時間は、他の業種と比べて長くはない。ただ、医療労働者は不規則な交代勤務をしている場合があり、日勤からそのまま夜勤に入るなどのケースでは、残業をするとほとんど休憩をとれないこともある。

患者の命や健康を預かる医療労働者の働く環境について、弁護士はどうみるのか。医師や看護師の過労死事件を担当した経験がある、波多野進弁護士に聞いた。

●医療労働者のサービス残業常態化は「常識」

「医師や看護師などの医療労働者がサービス残業が常態化していることは、医療労働者の間では常識になっていると思います。

調査では、始業前に仕事をしていると答えた人のうち7割以上が『時間外労働として請求していない』と回答したとのことです。

私が担当した国立循環器病センター事件(大阪高裁平成20年10月30日判決)では、『引き継ぎを受ける前に担当患者の状態を実際の目で見て確認する』、『カルテや看護記録を検討する』などの情報収集業務を、すべての看護師が定時の勤務開始時刻の30分以上前から開始していて、これは裁判例でも明確に認定されています。

この情報収集業務はまさしく看護師としての業務そのもので、早出残業です。ところが、看護師たちは残業代の申請を行っていませんでした。理由としては、先輩も同僚も残業の申請をしない、ましてや新人や若手の看護師は到底残業の申請はできない、予算が足りないなどの複合的な理由が重なっていると考えられます」

●「研究」と称して行われる「隠れたサービス残業」

「また『隠れたサービス残業』の問題についても指摘したいと思います。

これは、医師や看護師が『研究』や『委員会』という名のもとにおこなう業務です。『研究』などと称して、実際は業務手順やマニュアルの作成などを、就業時間外や自宅へ持ち帰って行っているという実態があるようです。しかし、それは『自己研鑽』という美名のもとに行うことになっているため、残業として申請されることはまずありません。

また、医師の当直勤務の場合、呼び出しがあれば即時に対応しなければならないため、結果として仮眠がとれたとしても、当直時間帯は全て労働時間と評価されると考えます。しかし実際は、当直手当は支払われるとしても、当直時間に見合った残業代が支払われているケースは少ないようで、当直時間帯はすべてサービス残業になっていると言えるでしょう。

看護師にしても医師にしても、休憩中であってもPHSを常に携帯したり、詰め所に待機して、PHSやナースコールに即時に対応する状況にある場合は、休憩ではなく労働時間と考えられるでしょう。そのように考えると、多くの病院では休憩時間がなく、この点でもサービス残業となっています」

●「日勤からそのまま当直」...過酷な連続勤務で心身に負担

「医療労働者の方々は、時間外労働が長いだけでなく、命や健康という代えがたいものと向き合う仕事であるため、即時対応を求められます。時間を問わず対応しなければなりません。看護師の場合には3交替の不規則勤務(日勤、深夜、準夜)であったり、医師の場合には当直勤務や緊急の呼び出しなどがあり、心身に負担のかかる勤務といえるでしょう。

医師の当直の場合、日勤からそのまま当直(徹夜)勤務を行い、更に当直明けも日勤を行うという過酷な連続勤務も珍しくありません。看護師の場合も、日勤を終えた後、そのまま深夜勤務に入るなどの連続勤務がよく行われています。このような連続勤務があると、睡眠がほとんど取れないまま長時間働くことになり、心身に大きな負担がかかります。

医療労働者の労働組合が、『労働時間の上限規制』と『連続勤務の規制』を求めているのはこのような観点から当然の要求だと考えます。これは医療労働者の心身の健康を守るためだけでなく、患者(国民)の安全を守るためにも必要不可欠な規制と考えられます。

例えば、外科医が連続勤務などで満足に睡眠を確保できないまま、手術をすることを余儀なくされるという危険な状況があります。

私が担当した鳥取大学付属病院事件(鳥取地裁平成21年10月16日判決)では、休みのない長時間労働でかつ連続勤務が続いた医師が、最後は徹夜の緊急手術の立ち会いの後に次の勤務先に車で移動する途中、過労運転のため事故死に追い込まれています。

このような心身ともに辛い状況の中、医師や看護師といった医療労働者の方々は患者と向き合っているのです。医療労働者のサービス残業を放置することは、医療労働者の心身の安全を害するだけではなく、ひいては患者(国民)の安全をも危険にさらす結果をもたらしかねないと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

波多野 進
波多野 進(はたの すすむ)弁護士 同心法律事務所
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。

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