「ご自由にお持ち帰り下さい」。コンビニの棚でそんなタイトルのアダルト雑誌を発見し、お金を払わずに持ち帰ろうとしたおじいさんを目撃したエピソードを紹介するツイートが話題になった。
タイトルは「ご自由にお持ち帰り下さい」。しかし、雑誌がタダというわけではなかった。タイトルの文字の下には「752円+税」と値段の表記がしてある。だが、おじいさんは、タイトルを見て「タダで持ち帰っていいのだ」と考え、持ち帰ろうとしてしまったようだ。おじいさんは店員に咎められたそうだ。タイトルはおそらく、女性の「お持ち帰り」を意味していると考えられるが、実に紛らわしい。
このツイートに添付された雑誌の表紙を見た人からは、「紛らわしい」「こんな表紙だとおじいちゃん勘違いしちゃうだろ」とおじいさんを擁護する声が多く寄せられていた。こうした表紙を見て、「タダ」と勘違いして有料の本を持ち帰ってしまった場合、それでも窃盗などの罪に問われてしまうのだろうか。西口竜司弁護士に聞いた。
●勘違いしたことに「やむを得ない事情があった」とはいえない
「もし今回のケースで、『雑誌がタダ』と勘違いしたおじいさんが雑誌を持ち帰って窃盗罪に問われるとしたら、一見すると、おじいさん可哀想ということにもなりそうですね」
西口弁護士はこのように述べる。どう考えればいいのだろうか。
「おじいさんは『ご自由にお持ち帰り下さい』と書いてあるのだから罪に問われないはずだという言い分です。つまり、自分のしていることは適法な行為だと考えているわけです。
これは、法律的には『違法性の錯誤』という問題です。典型的には、法律の存在を知らずに、違法行為をしてしまったような場合があたります」
法律の錯誤があった場合、犯罪は成立するのか。
「最近の裁判所の考え方は、つぎのようなものです。
(1)違法性の錯誤があっても、原則として、犯罪はそのまま成立する。
(2)ただし、違法性がないと勘違いしたことにやむを得ない事情があるときには、犯罪は成立しない」
今回のようなケースで、「やむ得ない事情」があったといえるのだろうか。
「コンビニの書籍棚に陳列されていたこと、価格が表記されていることからすると、常識的に考えれば、雑誌は売り物であり、売り物を持っていけば泥棒になるというのは分かるはずです。
したがって、行為に違法性がないと勘違いしたことにやむを得ない事情があるとまではいえないでしょう。
そのため、今回のようなケースで、雑誌のタイトルに『ご自由にお持ち帰り下さい』とあって、それを信じてお金を払わずコンビニから本を持ち去ったような場合、窃盗罪についての故意(責任故意と呼ぶ考え方もあります)が認められることになり、窃盗罪が成立することになります。
一般論としては、法律を知らないというだけで犯罪が成立しないというのはおかしいはずですので、結論はやむなしというところです」
西口弁護士はこのように述べていた。