世界遺産・仁和寺(京都市)の宿坊元料理長の男性が、長時間労働で抑うつ状態になったとして、寺に約4700万円の損害賠償を求めた裁判で、京都地裁は4月12日、「極めて過酷ともいうべき長時間労働」だとして、約4253万円の支払いを命じた。
報道によると、男性は2005年、料理長に就任した。2011年には月140時間以上の時間外労働が常態化し、月に約240時間になったり、349日の連続勤務もあったという。2012年に抑うつ神経症と診断されて、2013年には労働基準監督署から労災認定を受けていた。
「349日連続勤務」だなんて想像するだけでもおそろしい状態だ。一般的に連続勤務に関する規制はどうなっているのだろうか。また、なぜブラック職場はなくならないのか。今泉義竜弁護士に聞いた。
●現状は「36協定」もない職場が野放し
「そもそも原則として、使用者は労働者を1日8時間、週40時間を超えて働かせることはできません。週1日または4週間で4日の休日を、労働者に取得させることが労働基準法で義務付けられています。
ただ例外があります。典型的なのは、『36(サブロク)協定』です。この労使協定を結べば、使用者は労働者に残業・休日労働を命じることが可能になります。厚生労働省は労使協定で定めることのできる残業の限度時間を1か月45時間、1年間360時間と定めています。
36協定を締結して、時間に応じた残業代を支払うことで初めて、協定の範囲内での時間外労働や連続勤務が適法となるのです」
では今回の仁和寺の宿坊では、その36協定があったのだろうか。
「今回のケースは、そのような労基法に定められた労使協定の手続きすら経ずに、連続勤務をさせていました。仁和寺に限らず、労使協定を結ばずに長時間労働を強いている企業は無数にあります。明白な労働基準法違反です。
ただ、実際には、実効的な取り締まりが十分にはなされていません。労基法違反の罰則は軽く、労働基準監督官の人手不足の問題も深刻だからです。特に労働組合がないような職場では、個人が残業代の支払いを求める裁判を起こすなどしない限り、違法が正されないままブラックな働き方が野放しになってしまっています。
仁和寺の349日連続勤務は異常ですが、同じような過酷な長時間労働を強いられている労働者はたくさんいます。今回の判決自体は、労基法に照らして当然の結論というべきものです。さらに私たちは、このような働き方が野放しになっている社会構造の問題を直視しなければなりません」
では、どうしたらこの問題は解決できるだろうか。
「労働組合が協定に基づいて労働時間を制限するのがベストです。ただ、労働組合のない職場も多い現状においては、やはり労働時間の上限を厳格に規制すること、連続した休息時間を法律でしっかりと労働者に保障することが必要です。
36協定にも、実は『特別の事情』を理由として厚労省の定める限度時間を超える残業を可能にする抜け穴があります。このような規制の抜け穴をふさぐとともに、規制を実効のあるものにするための罰則の抜本的強化や、現場の監督官の体制強化といった取り組みも不可欠です。
現政権は裁量労働制の拡大など労働基準法の規制緩和を進めようとしています。しかし、仁和寺のようなケースを防ぐために必要なのは、規制の強化です。先日、野党4党が長時間労働規制法案を提出しました。このような動きに注目すべきです」
今泉弁護士はこのように話していた。