フリーランスを保護する法律が11月1日に施行され、発注者側に取引条件の明示や、買いたたきの禁止などが義務づけられた。ただ、契約書を締結しても中身が不利なままでは、発注者とフリーランスは対等な関係を築けない。
そうした問題を解消しようと、フリーランスの実態を調査する団体「一般社団法人 日本フリーランスリーグ」(名誉会長・やくみつる氏)は、11月14日、フリーランスが契約条件に求める調査結果を公表した。
発注者側の都合で発生するキャンセル代や、著作権の取り扱い、作業のやり直し回数の上限設定が上位に上がった。フリーランスリーグは「無償のキャンセルやリテイクが横行し、著作権に関する正当な対価が支払われず、作業期間が超過しても泣き寝入りする現状の裏返しと言える」としている。(ライター・国分瑠衣子)
●3、4パターン作曲しても『あの話、なしになっちゃった』 キャンセル料なし
調査はフリーランス法の施行前の9月、イラストレーターや漫画家、映像系などクリエイター系の24団体に行い、1236人から回答があった。
「契約書に入れるべき」と考える条件を複数回答で聞いた。発注側の都合で発生したキャンセル代の取り決め(キャンセルフィー)が約9割、著作権、著作隣接権の取り扱いについてが約8割、作業のやり直しの上限回数の設定が約6割だった。
キャンセルフィーを求める業種は、イラストレーターや漫画家、音楽家などが目立つ。業界によっては、これまでの慣習で契約書を交わさず、口約束だけという業界も少なくない。
作詞作曲家のエンドウ.さんは「『こういう曲をつくってほしい』と発注を受け、10回ぐらいやり取りをして、3パターン、4パターン作曲しても『ごめん、あの話なしになっちゃった』と、お蔵入りしてしまうこともあります。契約書はなく、キャンセル料は支払われてきませんでした」と業界の実態を説明した。
日本ベリーダンス連盟の代表理事の山本和泉さんも「集客できなかったり、雨天を理由に電話一本でキャンセルになるケースがありました。リハーサル代や衣装代などがかかりますが、キャンセル料はありません」と話す。
●「覚書フォーマット」をサイトで公開
調査結果を受け、フリーランスリーグは、発注者と事業者の合意事項を文書にする「覚書」のフォーマットを年内に配布する。今、契約を結んでいる事業者との契約書に加える形にすれば、すぐに使える。フリーランスリーグのサイトで紹介する。
このほか関係省庁に、フリーランス法違反の監視をする「フリーランスGメン」の創設を求める、オンライン署名も始めた。
フリーランスリーグの名誉会長で漫画家の、やくみつるさんは「フリーランス法という仏の部分ができて、魂を入れていくのがフリーランスリーグの活動です。私は45年一貫してフリーランスでやってきましたが、常に『承ってなんぼ』だったので、権利を主張する基準のようなものができ、心強い。私も新聞社と(契約書を)交わしていません。若い人が不利な状況に置かれることがないよう、自分のほうから示していかねばならない」と話した。
西野ゆかり理事長は「世界に目を向けると、韓国では文化、芸能、芸術分野のフリーランス向けに、国が80種類を超える標準契約書を用意し、フリーランスを保護しています。フリーランス法をスピード感をもって浸透させ、業界全体の生産性を高める必要があります」と提言した。