今年6月から始まる「定額減税」で、所得税の減税を給与に反映しなかった企業について「労働基準法に違反しうるものと考えられる」。林芳正官房長官は5月29日の記者会見で、そんな認識を述べた。
そのうえで、林長官は、仮に企業に違反が認められた場合であっても「まずは労働基準監督機関が是正指導をおこなうことで、企業による自主的改善を図ることになる」「ただちに罰則が適用されるものではない」などと説明を加えている。
定額減税は、1人あたり所得税が3万円、住民税が1万円減税されるというものだが、所得税の減税を給与に反映しなかった場合、どうして労働基準法に違反しうるのだろうか。高橋寛弁護士に聞いた。
●「賃金全額払いの原則」に反することになる
労働基準法24条本文は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めており、これを「賃金全額払いの原則」といいます。
また、同条の但し書きは、法令に「別段の定め」がある場合には、賃金の一部を控除して支払うことができるとしています。
所得税法183条1項が源泉徴収による給与控除を定めており、これは法令による「別段の定め」にあたります。つまり、源泉徴収する場合は、給与の「全額払い」でなくてもよいのです。
しかし、今回の定額減税が実施される場合、減税される分、源泉徴収額が減るため、減税を反映せずに所得税を控除して給与を支払った場合、本来控除してはいけない額が給与から引かれていることになります。
したがって、このような場合、「賃金全額払いの原則」を定めた労働基準法24条に違反することになると考えられます。こうした状況の下、給与支払い等の事務負担が増えることから、企業から懸念の声があがっているのです。