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「夫が人を殺しました」妻が110番 復縁を拒んだ元不倫相手を殺害…身勝手すぎる男の虚しい弁明 
東京地裁立川支部(MARODG / PIXTA)

「夫が人を殺しました」妻が110番 復縁を拒んだ元不倫相手を殺害…身勝手すぎる男の虚しい弁明 

東京都小金井市で元交際相手の女性(23=当時)に性的暴行を加えたのち殺害したとして強制性交等と殺人の罪に問われていた男(44)の裁判員裁判で、東京地裁立川支部(竹下雄裁判長)は2月13日、懲役18年の判決を言い渡した(求刑懲役20年)。

被告人は、1月25日の初公判罪状認否において殺人罪については認めたものの、強制性交等罪については「同意の上だった。起訴自体受け入れ難い」と否認していた。また弁護人は「事件当時、自閉スペクトラム症という精神障害に加えて、急性適応障害を発症しており、行動制御能力が著しく減退していた」と、被告人が一連の事件当時心神耗弱状態にあったと主張していた。

判決ではいずれの主張も認められず、事件当時の被告人には完全責任能力があったこと、そして同意もなく、同意を得ていたと誤信してもいないなかで性的暴行に及んだことが認定された。

元交際相手であり被害者のAさんは、交際を始めた当初から被告人に別の交際相手がいたことや、ほどなく結婚したことを告げられずにいた。Aさんがこれを知ったのは、被告人とその妻との間に第一子が生まれた直後だったという。被告人が身勝手な二股交際の末にかつての不倫相手を殺害したのは、妻から離婚を切り出されたタイミングだった。(ライター・高橋ユキ)

●Aさんと交際直後、妻と結婚。第一子誕生直後に不倫を告白

「夫が人を殺したと言っている」

妻からの110番通報ですぐに逮捕された被告人は、その直前、かつての不倫相手Aさんを殺害していた。

青いスーツ、短く整えられた頭髪。営業として長く会社勤めをしていたという被告人は、2022年1月27日の夜、Aさんの自宅付近の茂みに隠れて待ち伏せし、帰宅してきたAさんに果物ナイフを突きつけAさん宅に入った。部屋に入ると、待ち伏せの合間にコンビニで買っていたガムテープでAさんの両手首を緊縛したのち、顔面を拳で殴り、Aさんの着衣の下半身のみ脱がせて性的暴行に及び、そしてベルトでAさんの首を絞めて殺害した。

判決や証拠などによると、ふたりの出会いは2017年。被告人が勤めていた会社の求人に、大学生だったAさんがアルバイトとして応募してきたことが始まりだった。翌2018年秋から交際関係に発展したが、被告人には別の交際相手がおり、同年12月、その交際相手と入籍した。そして第一子が生まれた直後である2019年の夏、被告人は妻とAさんに対して同時に、二股交際の事実を伝え、妻には不倫関係を解消すると約束したが、その後もAさんとは別れや復縁を繰り返しながら交際を続けていたという。

●「もう無理です」妻から三行半

一方のAさんは、被告人の妻から慰謝料を請求されており、事件直前である2021年12月まで、分割で支払いを続けていた。同月下旬、被告人がAさんの男性関係を邪推したことがきっかけでふたりは別れたが、被告人はAさんに執着し続けた。その後もAさんの男性関係を邪推し続け、2022年1月4日、Aさん宅に行き、LINEのトーク画面を見せるように要求した。

Aさんは交番に出向き、警察官立ち合いのもとで被告人にLINEトーク画面を見せたというが、このとき被告人は警察官から「Aさんが別れたがっている」と伝えられた。被告人は警察官に対して別れを了承。これ以降、Aさんは被告人からの連絡に一切、応じなくなったという。

さらに同日夜、被告人は妻からいよいよ三行半を突きつけられる。

「もう無理です。2月は部屋の更新月だから、今月いっぱいで出て行って」(妻の発言・弁護側冒頭陳述より)

そう告げられた被告人は市役所に赴いて離婚届を複数枚受け取り、自宅で妻と記入した。

ところが被告人はAさんへの気持ちを諦めきれず、復縁を望み、電話やLINE、そして手紙で繰り返しAさんにコンタクトを取り続けていた。手紙には妻との離婚届を同封し、こう綴った。

〈3年間我慢させて、寂しい思いばかりさせてごめんなさい。離婚を決意しました。少し遠回りしたけど、書斎を作る夢は大切な人と一緒に叶えたい〉

だがAさんからの反応はなかった。Aさんは被告人と別れたのち、新たな恋人との関係を進め始めていたのだ。

事件の日(1月27日)の夜、妻から「子どもを寝かしつけたら離婚について話そう」と告げられた被告人は「頭を冷やしてくる。ドライブしてくる」と言い残し、果物ナイフを持って車に乗りAさん宅へ向かった。

被告人に果物ナイフを突きつけられ、被告人とともに自宅に入ってから、Aさんは恋人に電話を2回かけて、被告人にスマホを手渡したが、恋人は着信に気づかなかった。

その恋人は第2回公判に証人出廷し、時折声を詰まらせ、目元をぬぐいながら、こう語った。左手薬指には指輪が光る。事件後に作ってもらったというそのリングには、Aさんと自分の名が彫られているという。

「直前までLINEをしていました。ですが何気ない連絡を取り合っている間、彼女からメッセージが返ってこなくなり、私が寝落ちしてしまいました……すぐに目覚めると2件、不在着信が入っていたので折り返しましたが出ず、おかしいなと思ってLINEしましたが、一向に返信がなく、また寝落ちしてしまいました」(Aさんの恋人の証言)

まさにその頃、被告人はAさんの両手をガムテープで緊縛し、頬を殴ったのち性的暴行を加えていた。ところが被告人はこれを“同意の上での行為”だったと被告人質問で主張し続けた。

「ガムテープを取り出し、Aさんの腕をぐるぐる巻きにしているとき『怖くないの?』と私からむしろ聞いたら『怖くないよ、大好きだから』と答えました(第3回公判・被告人質問での証言)

現場に残された証拠やAさんの遺体の状況等によれば、その後被告人はAさんの顔を拳で15〜20発殴り、さらに包丁を持ち出しAさんの頭髪を剃った。そして部屋にあった調理用油をAさんにかけ、ベッドの上にうつぶせ状態になっているAさんの背中に足を乗せ、後ろからベルトで首を絞めた。

「Aさんの髪をかき上げたら、頬が紫色になっていて、殺してしまったと思った。ダウンジャケットとジーンズを着て、Aさんのスマホと鍵をポケットに入れて家を出ました。その後妻に『人を殺してしまった』と告げて『これから飛び降り自殺する』と言いましたが、妻から『やめてよ、帰ってきて』と言われ、車を運転して自宅に戻りました……」(同)

こうして妻が110番通報し、すぐに被告人は逮捕された。

法廷では、事件当時の性的暴行を「同意があった」と主張していた被告人だが、逮捕直後の取り調べでは違う話をしていたという。

「Aさんが『昔みたいにHしよう』と言ってきたが、恐怖からそう言っているんじゃないかと思った」 「なだめる演技だということは分かっていた」(逮捕直後の調書)

被告人はこうした過去の発言について「命で償おうと死刑を望んでいたから罪が重くなるような話をしていた」と嘘であると主張し続け、そして最終陳述では、所信表明演説のようなはっきりとした口調で述べた。

「私にできることは限られていますが、生涯をかけ、自分のしてしまった罪の重さを胸に刻み、償い、更生への歩みを進めてまいります」

懲役18年を言い渡した竹下雄裁判長は「被告人に殴られて痛がっている状態のAさんが性行為に及ぶ状態にあったとは考えられない。恐怖からこの場をなんとか乗り切ろうとしていたことも十分考えられ、真から同意していたと認められない」と、“同意のあった性行為”という主張を一蹴した。

犯行時の精神状態についても「あらかじめ道具を持ちA方へ入り強制性交と殺害に及んだ。その時々の状況に応じ、目的を果たすため手段を選択しながら行動していた」として完全責任能力を認めている。

「被害者は被告人との関係を解消させ、すでに別の人と交際を開始しており、落ち度は全くない。被告人は復縁したかったが思い通りにならず一方的に殺意を抱いた。極めて自己本位で身勝手。被害者の精神的肉体的苦痛は甚大。また被害者を都合よく扱い続けた被告人への処罰感情も峻烈」(判決より)

法廷で“殺害直前の性行為に同意があった”との不可解な主張を続けていたことについても「Aが自ら求めてきたなど、都合のいいことしか述べておらず、一人の命を奪ったことへの内省が深まっているとは言えない」と厳しく指摘されていた。

「『奥さんに謝る』と呼び出された。結婚していたことも、子どもがいることも知らされてなかった。騙された」

Aさんの母は、かつてAさんからこう聞いていたと意見陳述で明かしていた。被告人の妻は不倫を告げられ「墓場まで持っていってほしかった」と激怒したという。

被告人はなぜ、不倫していることを自分から妻に告げたのか、不可解な行動の理由は法廷では明かされないままだった。妻には堂々と不倫を明かし、不倫相手には慰謝料という金銭的なペナルティを与える結果をもたらしながら、どちらとも関係を続けていこうとした被告人の身勝手さだけが印象に残った。

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