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根拠乏しい「No.1広告」に消費者庁がメス、結論ありき「リサーチ」横行に歯止め…業界激震の裏側
画像はイメージです。マーク素材(阿部モノ / PIXTA)。

根拠乏しい「No.1広告」に消費者庁がメス、結論ありき「リサーチ」横行に歯止め…業界激震の裏側

「お客様満足度No.1」など、いわゆる「No.1表示」と呼ばれる広告手法について、根拠が乏しいものが珍しくないとして、消費者庁が是正に本腰を入れはじめた。

マクロミルが2022年におこなった調査(対象:全国20〜69歳の1000人)によると、「No.1」をうたう広告が「増えた」と感じる消費者が54.7%と過半数を超えた。

消費者庁は2023年夏ごろから、問題のある広告を次々に「措置命令」(問題広告の取りやめや再発防止などの対応を求めるもの)の対象にし、今年3月には実態調査をおこなうことも発表した。

調査結果は今秋にも発表される予定で、改正景品表示法の施行とともに、業界に大きなインパクトを与える可能性がある。

●調査会社「アンケートで1位にするから百万円でどうか?」

なぜ「No.1表示」は増えたのか。背景のひとつに、同種の調査を専門にする会社が増えたことがあげられる。

都内で化粧品会社を営む男性(40代)は次のように証言する。

「『ネットでアンケートをとって御社の商品を1位にします。百万円でどうですか』みたいな営業電話がしょっちゅうかかってきていましたね」

こうした状況を受け、日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)は2022年、「『No.1 を取得させ る』という『結論先にありき』」の調査だとして抗議の声明を発表した。

消費者庁も調査に動き、景品表示法に基づく措置命令を積極的に出すようになった。「No.1表示」に対する措置命令は、2022年度まではほとんど出されていなかったが、2023年夏ごろから増加。2023年度は8️件13社(加えて、特定商取引法による処分が1件1社ある)の措置命令が出されており、そのほとんどが2024年に入ってからだ。

●商品を使っていない消費者が「満足度」を回答

摘発を受けた中には有名企業もある。たとえばWi-Fiレンタルサービス「イモトのWiFi」を提供するエクスコムグローバルだ。

消費者庁の発表によると、「お客様満足度No.1」などの表示があったが、調査会社が実施した調査には、商品を利用していない人(=非お客様)も含まれていた。実際の使用感ではなく、イメージで回答させていたという。

こうした調査手法であれば、調査設計にも時間がかからないし、他の分野への転用も容易だ。調査業務についての専門知識より、多くの受注を受けるための営業力が物を言う。

埼玉県からの委託で広告の調査をおこなっているNPO法人「埼玉消費者被害をなくす会」の木村智博弁護士によると、昨今はこのような「利用有無を問わないイメージ調査」が特に問題になっているという。

「たとえば、売上No.1というのも、実際に調査するのは大変です。地道な調査をした『No.1表示』ならいいのですが、今は売り出す前からイメージ調査で手取り早くNo.1をつくってしまう。ちゃんと調査している会社からしたら困りますよね」

世に「No.1表示」が増えた結果として、新商品にも何らかの「No.1表示」を出さざるを得ない悪循環が生まれ、不当な調査が横行する素地がつくられていったという。

画像タイトル 木村弁護士

●約20年前から問題化、なぜ今?

そもそも、「No.1表示」の問題は今に始まったことではない。

現在、景品表示法における広告表示の問題は消費者庁が担当しているが、以前は公正取引委員会だった。公取委は2008年に実態調査を実施し、次のような考え方を示している。

「商品等の内容の優良性や取引条件の有利性を表すNo.1表示が合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、景品表示法上問題となる」

しかし、木村弁護士によると、実際に行政から問題視される事例は少数だったという。理由は景品表示法の規定の仕方にある。同法が問題とする表示は次の3種類(景品表示法5条)。

(1)著しく優良と誤認させるもの(優良誤認)
(2)著しく有利と誤認させるもの(有利誤認)
(3)その他誤認されるおそれがある表示(現在7類型がある)

たとえば「お客様満足度No.1」と書いたからといって、直ちに「著しく優良」と言えるかは解釈が分かれる部分だったという。

「消費者庁としては、広告表示の中でも、優良誤認については、食品などの効果効能をダイレクトにうたうものを中心に問題視していたといえます」
「根拠が乏しい『No.1表示』についても、好ましくはないと思っていたでしょうが、実際に問題視されたのは『東大合格者数No.1』や『着工棟数日本一』のような事実がハッキリしているものが中心でした」

公取委により一定の考え方は示されたものの、踏み込んだ行政対応がなかったため、結果としてグレーな「No.1表示」が温存され、エスカレートしていったようだ。

「『イメージ調査』は、約15年前の公正取引委員会の調査のときにはあまり意識されていなかった」と木村弁護士は語る。

●「不当なNo.1表示」対策の3本の矢

消費者庁が本腰を入れたことで、「No.1表示」は今後大きく姿を変える可能性がある。

たとえば現時点でも、問題のある調査会社は動きづらい状況ができつつある。

措置命令の報道発表では、実際の広告も資料として公表される。通常は「No.1表示」の部分に「調査提供」などの形で社名が入るため、関与した調査会社もわかってしまうということだ。

事実上「公表」された調査会社の中には、「No.1調査」事業からの撤退を表明したところもあるという。

また、消費者庁が実態調査をすることで、さらに踏み込んだ考え方が示される可能性があるという。木村弁護士は次のように説明する。

「広告手法では、『打消し表示』も数年前に問題になりました。たとえば、全品半額と大きく表示しつつ(強調表示)、小さな文字で半額対象が限定されている旨の表示(打消し表示)があるものや、効果効能を実感したという体験談について、欄外に小さく『個人の感想であって、効果効能を保証するものではありません』と表示があるものなどです。

これも消費者庁が実態調査をして考え方を示しました。『No.1表示』についても踏み込んだ考え方が示される可能性は十分あると思います」

さらに2023年の景品表示法改正で、100万円以下の罰金を科す「直罰規定」が設けられたことも大きい。

「これまでの景品表示法では、措置命令に従わない場合にしか刑事罰を科せませんでした。しかし、改正法は遅くとも2024年11月17日までには施行されますので、それ以降は措置命令を経ずにいきなり刑罰を科せるようになります。

景品表示法は広告主を対象とした法律ですが、直罰規定ができたことで、悪質な調査会社なども『共犯』として、理屈上は一緒に処罰できるようになります」

木村弁護士によると、景品表示法は故意ではなく、知らないうちに違反してしまうことが多い法律だという。そのため、これまでは違反した場合の効果も弱いものだった。

しかし、2013年に起きたホテルのメニュー偽装問題などを契機として、課徴金制度が導入され、条件を満たせば、措置命令を出されたときに、問題広告を掲載していた期間の売上の3%を納めなくてはならなくなった。

消費者庁が、No.1表示に関して措置命令を頻発するようになったことで、広告主企業にとっては、課徴金のリスクや問題のある企業としてさらされる可能性が出てきたことになる。さらに、今後は刑事罰を科される可能性も加わる。

「広告主にとって、広告会社や調査会社主体での広告制作はリスクが高まる。任せっぱなしになるのではなく、たとえば調査をするなら、何を調査するのか、どんな表現をしたいのかを明確にしてから依頼すべきでしょう」

●「コロナ前のNo.1は古いからNG」は行きすぎか?

一方で微妙な問題も残りそうだ。前出の男性経営者は次のように語る。

「新聞に広告を載せようと思ったんですが、広告代理店から『No.1表示』にNGが出ました。

有名な雑貨店の化粧品部門で売上No.1になったことを盛り込んだところ、『コロナ以前の結果は古いのでやめてくれ』と」

不当な「No.1表示」が問題になった結果、「No.1表示」全体の審査が厳しくなっている可能性もあるようだ。

男性は「売上1位は事実なのに、なぜダメなのか」と憤る。たしかに新しいとは言い難いが、大勢の消費者から支持されたのは事実。実績がない商品と比べれば、優位性を示すデータで消費者の参考にもなりそうだ。

他方で、もしも1位の期間が1日だけだったら、当時とトレンドが大きく変わっていたら、無名の小規模小売店だったら——と代入値を変えれば、たとえ事実だとしても「No.1」をうたうには不適切なようにも感じられる。

「No.1表示」について問題提起したJMRAは、こうした微妙な問題を「それは事実かもしれないが、『市場の真実と言えるか?』問題」と表現。今年度中にガイドラインなどを発表する予定だという。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

木村 智博
木村 智博(きむら ともひろ)弁護士 木村・東谷法律事務所
消費者庁表示対策課課長補佐として、景品表示法関連の業務に従事。訟務検事を経て弁護士に復帰した後は、消費者問題などに取り組む傍ら、特定適格消費者団体「埼玉消費者被害をなくす会」の検討委員も務めている。

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