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2020年11月19日 10時10分

「突然いなくなった」V系バンドの元メンバー、事務所と和解成立で「脱退の真相を伝えたい」

山下真史 山下真史
「突然いなくなった」V系バンドの元メンバー、事務所と和解成立で「脱退の真相を伝えたい」
「コドモドラゴン」元メンバー、華那(カナ)さん(本人提供)

ビジュアル系ロックバンド「コドモドラゴン」の元メンバーで、ギターを担当していた男性、華那(カナ)さんに、ようやく「脱退」について話せるときがやってきた。ことし8月、所属していた事務所と争っていた民事裁判で「和解」が成立したからだ。

その内容は、事務所が(1)カナさんに和解金として330万円を支払う、(2)カナさんが適応障害を患ったことについて配慮を欠いたことを謝罪する――というもの。カナさんは11月18日、ブログ(https://kana-gt.com/to-everyone20201118/)上でそのことをつづっている。

カナさんは、弁護士ドットコムニュースの取材に「裁判はとても長くて、しんどかったけれど、今ではやって良かったと思う」としたうえで、「脱退の真相」を伝えたいと話している。

●カナさんは「適応障害」を患っていた

カナさんは2013年、事務所と実務家契約を結んで、コドモドラゴンのメンバーとして活動していた。ところが、その後、カナさんが「失踪する」という事件が起きる。

事務所は2018年5月、公式ウェブサイト上で、カナさんの「脱退決定」を発表した。

事務所によると、カナさんは同年1月4日、突然姿を消して、1月6日に「コドモドラゴンを脱退させてほしい」という手紙を送ってきた。事務所は「脱退するならファン前で伝えること」などと提案したが、カナさんが拒否した・・・ということになっている。

しかし、実は、カナさんは「姿を消した」のではなく、精神的に参ってしまっていたのだ。同年1月6日、カナさんは、医師から「適応障害のため、中等度のうつ状態を呈しており、就業不能であり、そのため今後2カ月間の自宅療養が必要である」という診断を受けている。

どうして、適応障害を患ってしまったのか。カナさんによると、ことの発端は、2016年9月、社長から誘われたゴルフをカナさんが足のケガを理由に断ったことだという。

「医者からも『ライブが近いなら、ゴルフには行かないほうがいい』と言われたので、その旨を伝えたうえで、ゴルフの誘いを断りました」(カナさん)

そのときは問題とされなかったが、その翌日に「カナが普通に歩いていた」という話を聞いた社長は後日、カナさんに「嘘をつくな!」と激怒した。そこから"ハラスメント"がはじまったという。

カナさん カナさん(本人提供)

●ことあるごとに「クビにするぞ」と言われていた

カナさんは、ことあるごとに社長から「クビにするぞ」と言われるようになった。

たとえば2017年3月、韓国でのライブのあと、カナさんは体調を崩してしまったため、マネージャーに事情を話して打ち上げの参加を断り、ホテルに戻っていたが、すぐに「社長が激怒している」と呼び戻された。カナさんが会場に赴くと、社長は大勢の前でカナさん一人を立たせ、「お前をクビにする話をしていた」と言った。

さらに同年12月、同じ事務所の先輩バンドの公演のあと、カナさんは先輩の一人と約束して、別の店にいた。すると、突然、社長から「お前どこにいるんだ、早く来ないとお前をクビにするぞ」と電話があり、カナさんは急いで社長の元へ向かった。

そのときも社長は、メンバーやスタッフ、関係者などの面前で「なんで来たの?お前をクビにする話をしていたのに」と言い放った。カナさんが戻ろうとすると、社長は「俺と先輩、どっちをとるんだ」「お前クビだから」と突き放した。

こうした言葉によるハラスメントを受ける中で、カナさんの心身はむしばまれていった。

「眠れなくなりました。口内炎や下痢が続いたり、ライブ前にも吐くようにもなりました。もともと太りやすい体質なのですが、マネジャーから『ダイエットはやめてください』と言われるほど、勝手に痩せていきました」(カナさん)

●「事務所としてカナを解雇とします」

こうした状況の下、2017年12月31日、とうとう"糸が切れる出来事"が起きた。カウントダウンライブのあと、カナさんが「今年もよろしくお願いします」とあいさつしたところ、社長から「今年は始まったけど、お前とは終わっている」と連呼されたのだ。

このままずっと、この事務所で働いていくのはどうなんだろうか――。カナさんは1月4日の集合時間に行けなくなってしまった。そして、上記のように医師から診断を受けた。

カナさんは「うつ病だという診断を受けました」「しばらくは活動できない状態です」「このまま音楽を続けていこうと思えない状態のため、退職を考えています」という手紙と診断書を事務所に送った。

社長が「わかった。しばらく休めよ」と言ってくれるだろうと期待したが、メールで「残されてるメンバーのこと、ファンのことをちゃんと考えて行動しないと、あまりにも無責任やと思います」という返信があった。

さらに同年3月、社長から「ちゃんと表に出てケジメをつけた辞め方をするべきやと思います」「もしそれすら無理だと言うのであれば、カナの意思云々ではなく、会社として君を解雇という形にします」「事務所としてカナを解雇とします」と送られてきた。

メールには「損害賠償請求する」という内容も書いてあった。

●1審・東京地裁は「370万円」の支払いを命じる

「ずっと自分のことを会社員だと思っていました」

驚いたカナさんは、労働基準監督署(労基署)に駆け込んだ。だが、カナさんは事務所に所属しているが、いわゆる「労働者」ではない。その後、法テラスや役所の法律相談を回って、ようやくミュージシャンの契約問題にくわしい高木啓成弁護士に出会えた。

代理人となった高木弁護士は、事務所から、カナさんに報酬(清算金)がきちんと支払われていないことに着目した。

もともと、バンドの作品・公演の売上から経費を引いた利益については、事務所とバンドが「5:5」で分配するという契約になっていたが、2017年にメンバーに「不祥事」があったとして、社長は「メンバー全員で責任をとるべきだ」と主張し、メンバー全員に対して報酬カットに応じさせていたのだ。

こうして、カナさんは2018年6月、事務所を相手取り、ハラスメントの慰謝料と未払い報酬(清算金)、合わせて約875万円の支払いをもとめて提訴した。1審・東京地裁は今年3月、カナさん側の請求を一部認めて、事務所に対して、計約370万円(うち慰謝料50万円)の支払いを命じた。

1審判決時のカナさん 1審判決時のカナさん(本人提供)

●「僕みたいにつらい思いをする人が出てきてほしくない」

「基本的には、報酬カットについて、"合意が成立してない"と認められました。ただ、本来支払われるべき報酬額については証拠が乏しく、こちらが主張した金額すべては認められませんでした」(高木弁護士)

事務所側は1審判決を不服として控訴していたが、ことし8月、事務所側が(1)和解金として330万円を支払う、(2)適応障害を患ったことについて配慮を欠いたことを謝罪する――ことで、和解することになった。

社長は"ハラスメント"を認めなかったが、控訴審の裁判官が「少なくとも適応障害の診断を受けて、まったくとりあわずに『解雇だ』『損害賠償だ』というのは、不適切だったんじゃないか」というふうに介入したそうだ。

一方、カナさんはお金の問題ではないと言う。

「それよりも、社長に反省してもらって、心を入れ変えてもらいたいと思います。裁判の判決で勝ったとしても、彼が反省しなければ、何も変わりません。これ以上、僕みたいにつらい思いをする人が出てきてほしくないです」(カナさん)

●「僕が音楽活動できたのは、コドモドラゴンのメンバーのおかげ」

今後、カナさんの音楽活動はどうなるのだろうか。

「もともと脱退とともに音楽活動は一切やめようと思っていました。ただ、裁判の終わりに近づいたころ、バンドマンの友だちに連絡をとったら、『ちゃんとファンの前で公表したほうがいい』『ライブを一度やったほうがいいんじゃないか』と言われました。『もし、カナがもう一度ライブをやるなら協力する』と言われたので、もう一回やりたいという気持ちが強くなりました」(カナさん)

事務所が脱退を発表したことで、ファンの間では、カナさんは「突然いなくなった」ことになっている。ブログでも思いをつづったが、たくさんの人たちに広がっているわけではない。そのため、カナさんは来年春、誕生日である3月1日に音楽活動を再開しようと考えている。

「1人でも多くの人に集まってもらいたいです。今でも『なんでいなくなったのか?』と思っているファンもいるだろうと思います。ちゃんと自分の口で、集まったファンたちに気持ちを伝えたいと思います」(カナさん)

仲の良かったコドモドラゴンのメンバーたちとも会えていない。

「僕がバンドにいられなくなったことの"後ろめたさ"はあります。ほかのメンバーたちはそのことで大変になったことがたくさんあるだろうし、ファンからも理由を聞かれていただろうと思います。僕がこれまで音楽活動ができたのは、コドモドラゴンのメンバーのおかげです。裁判が終わったので、彼らにもちゃんと伝えたいと思っています」(カナさん)

カナさん カナさん(本人提供)

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