親や兄弟が亡くなれば、深い悲しみのあとに待っているのが「相続」という現実だ。もし、その中に農地が含まれていたら要注意だ。
土地の登記簿を取り寄せてみると、名義は数十年前に亡くなった祖父のままだった──。こうした「相続未登記農地」は、貸したくても貸せない、売りたくても売れないだけではない。
権利関係が曖昧なまま放置されることで、地方では「ヤミ小作」の温床になるケースもある。
2024年に相続登記が義務化された今も、全国には膨大な未登記農地が残されている。その実態を取材した。(ライター・タカイワマサ)
●全国の農地の約1割が「相続未登記」
2024年4月から相続登記が義務化された。
相続で土地を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければならず、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料の対象となる。
しかも、このルールは2024年以前に相続した土地にも適用される。だが、全国には今なお相続登記がされていない農地が数多く残されている。
農水省の令和6年度「相続未登記農地の実態調査」によると、登記名義人の死亡が確認された相続未登記農地は、全農地面積の約1割を占める。
たとえば、鹿児島では全農地の21.3%が未登記農地であるというから驚きだ。
この数字は、農水省が所有者の死亡を把握できている農地を集計したものであり、実際には、さらに多くの未登記農地が存在するとみられている。
●「司法書士に頼むと金がかかる」→放置される
筆者が暮らす栃木県の中山間地域でも、相続登記が何十年も放置された農地の話は珍しくない。
県内の農家・Aさんは、その背景をこう話す。
「相続が発生しても登記申請をしない人は、地方では本当に多いですね。『司法書士に頼むとお金がかかる』『自分でやるのは面倒だ』というのが一番の理由です。
田舎では何筆もの土地を相続することが多く、その分、司法書士への報酬や登録免許税も増えてしまう。そのため、実家が建っている宅地だけは登記を済ませても、その他の山林や農地はそのまま放置されるケースはよくあります」
●地方では珍しくない「祖父の土地のまま」
ところが、その「後回し」が思わぬトラブルを招くことがある。
Aさんは、近所の人から「うちの農地を貸してあげようか」と声をかけられたことがあった。念のため登記簿を確認すると、所有者は40年前に亡くなった祖父のままだったという。
「本人は『ちゃんと相続をした』と言うのですが、県内外に兄弟が何人もいます。本当にその人が所有者なのかわからない。後で権利関係で揉めたくないので、泣く泣く借りるのを断りました」
農地を貸し借りするには、原則として農業委員会の許可が必要だ。しかし、相続未登記農地では、権利関係を確認できず、許可手続きも進まない。
その結果、正式な手続きを経ず、当事者間だけでこっそり貸し借りする「ヤミ小作」が横行する温床となってしまうこともあるという。
●数世代前で登記が止まると「相続人」は数十人に
相続未登記農地の問題は、そのまま放置していても表面化しないことが少なくない。しかし、次の相続が発生したときに、一気に深刻なトラブルに発展する。
Aさんはこう話す。
「親の農地を相続しようとしたら、登記が数代前で止まっていて、戸籍をたどりながら何十年も前の相続人を探すことになり、困惑する人も少なくありません。
また、親がヤミ小作でこっそり他人に貸していた場合、土地を整理しようとした際に小作人との間で『返す』『返さない』で揉めやすいですね」
登記が数代前で止まっているケースでは、相続人が数十人に及ぶことも珍しくない。
県外に転出して所在がわからない人や、相続の話し合いに応じない人が一人でもいれば、手続きは一気に難航する。戸籍をたどる作業だけでも膨大な時間がかかり、専門家への依頼費用もかさんでしまう。
「面倒だから」と先送りしたツケを、何十年も後の子や孫の世代が背負わされることになるのだ。
●「まだ大丈夫」が一番あぶない
さらに、こうした問題は個人だけでは終わらない。
所有者がわからない農地が増えれば、農地の集約や担い手への貸し付けが進まず、耕作放棄地の増加にもつながる。公共事業や災害復旧でも所有者の確認に時間を要し、地域全体に影響を及ぼしかねない。
相続登記が義務化されたのは2024年4月だが、それ以前に相続した土地については3年間の猶予期間が設けられている。
そのタイムリミットは2027年3月末に迫っている。
司法書士に依頼することが費用面で難しい場合でも、法務局では相続登記に関する無料相談を受け付けている。まずは相談し、何が必要なのかを確認するだけでも大きな一歩になる。
相続未登記農地は、実家に農地がある誰もが無関係ではいられない問題だ。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、その土地は家族や地域を巻き込む「時限爆弾」へと変わってしまうかもしれない。
次の世代に問題を先送りしないためにも、一度、実家の土地の登記がどうなっているのか確認してみるのが大切だ。