さまざまな個人情報が盛り込まれている「履歴書」。本来は会社内で厳重に保管されるべきものだが、管理が不十分だったためにトラブルに発展してしまうケースもある。
弁護士ドットコムにも、社員の履歴書が誰でも見られる場所に置かれていたために、同じ会社の男性社員に住所や電話番号が知られてしまったという女性が相談を寄せている。
相談者によると、ある日、同じ会社で働く男性社員から突然電話がかかってきたという。男性に電話番号を教えたことはないため、「なぜ番号を知っているのか」と聞くと、「履歴書を見た」と言われたそうだ。
この事件以来、会社は履歴書を厳重に保管するようになったものの、相談者は会社に対して慰謝料請求をしたいと考えている。
●会社は「安全管理措置を講じる義務に違反した可能性が高い」
社員が誰でも見られる場所に履歴書が置かれていたことに法的な問題はないのだろうか。山本幸司弁護士は、次のように指摘する。
「履歴書には『個人情報』が記載されています。こうした個人情報の取り扱い事業者は、個人情報保護法により様々な義務を負います。義務違反があれば、行政機関の個人情報保護委員会から指導や勧告等を受けることもあります。
個人情報の取り扱い事業者の義務の1つに、安全管理措置を講じる義務があります(個人情報保護法20条)。これは『個人データ』(個人情報のうち、検索しやすいように整理され、データベースを構成するもの)が漏えい等しないよう、安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる義務です。
履歴書は氏名の五十音順でインデックスを付してファイリングされるなど、検索しやすいように整理されていることも多いでしょう。その場合は個人データに該当し、会社は安全管理措置を講じる義務を負います。
そうした履歴書が誰でも見られる場所に置かれていれば、会社は安全管理措置を講じる義務に違反した可能性が高いといえます」
●会社と電話をかけた男性に慰謝料請求はできる?
では、相談者は会社あるいは履歴書を見て電話をかけた男性に対して慰謝料を請求することはできるのだろうか。
「慰謝料を請求することは可能です。履歴書の情報は、人に知られたり、悪用されたくないものでしょう。こうした期待は『プライバシー』として法的に保護されうるといえます。
相談者は、会社の不適切な情報管理の結果、自分の個人情報が誰にどこまで知られたのかも分からず、さらに履歴書を見た男性社員から電話をかけられる事態となり、強い不安感、不快感を覚えたと思われます。会社に対しては、プライバシー侵害を理由に慰謝料を請求できる可能性があります。
また、電話をかけた男性も、履歴書を見て女性に電話をすれば、強い不安感、不快感を抱かせることを予見できたと考えられます。そうすると、男性に対しても慰謝料を請求できる可能性があるでしょう」