治療における痛みや恐怖などを理由に、歯医者を怖いと感じている人は少なくない。しかし中には、助手や衛生士に対する歯科医の言動に恐怖を感じている患者もいるようだ。
会社員のアオイさん(30代女性)もその1人。これまで通院していた歯科医院では、治療中に歯科医が衛生士に「チッ、使えねーんだよ」「もういいよ。お前いない方がいいよ」などと怒鳴りつけており、不快感を感じていたという。
「正直、歯の治療よりも先生の言動に恐怖を感じ、別の歯医者に変えました。長続きする衛生士さんがいないのも頷けます。患者には優しいのですが…」とアオイさんは話す。
ネット上にも「頭上で助手や衛生士にパワハラ発言しまくる歯医者やめたい」「横で衛生士さんに帰れ!など怒鳴る歯医者が怖くて、お腹が痛くなる」などの投稿がある。歯医者に限らず、「消えちまえ!」などと看護師を怒鳴る医師をみて、怖いと感じた患者もいる。
弁護士ドットコムにも、歯科医院でアルバイトをしていたという女性が相談を寄せている。相談者は、歯科医に幾度も患者の前で「無能」などと怒鳴られ、持病が悪化した。患者の中には、歯科医の怒鳴り声に恐怖を感じ、泣き出してしまった人もいるという。
どうやら世の中には、パワハラがはびこる恐怖の歯科医院が少なくないようだ。はたして、このようなパワハラ歯科医院にどのような法律問題があるのか。西山良紀弁護士に聞いた。
●「無能」「使えねー」は一方的な罵倒
ーー患者の前で、衛生士や助手などに対して「帰れ」「無能」「使えねー」などの発言をおこなうことは「パワハラ」にあたるのでしょうか
法律上の明確な定義はありませんが、「パワーハラスメント」とは、一般的に「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」(「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」による定義)を指し、不法行為に該当します。
パワハラにあたるか否かは、当事者が「パワハラ」と思えば直ちに「パワハラ」にあたる、というように当事者の一方的な判断で決まるわけではなく、「一般人であればパワハラと評価するか否か」で判断することになります。
患者の前で「帰れ」「無能」「使えねー」と怒鳴ることは、一方的な罵倒であり、具体的な仕事に対する注意・指導でありません。このような医師の発言は、衛生士や助手の人格を否定したり、衛生士や助手を過度に威圧したりするものであり、業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与える行為に該当すると思います。
よって、このような医師の発言はパワハラにあたると思います。
●「数十万円の慰謝料しか認められないことも」
ーーパワハラにあたる場合、暴言を吐かれた衛生士や助手などは医師に対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか
はい。パワハラは不法行為に該当するので、衛生士や助手は医師に対して、慰謝料請求することができます。
ただし、裁判をしても数十万円の慰謝料しか認められないことも多く、弁護士費用を支払うと赤字になる場合もあります。そのため、実際に慰謝料請求するかどうかは慎重に判断する必要があります。
ーーパワハラがあったことを証明するためには、どのような証拠を準備すればよいでしょうか
パワハラを証明するための証拠としては、パワハラに該当する言動の録音データ、パワハラに該当するような記載のあるメール、パワハラの詳細を記載した日記、同僚や友人等にパワハラについて相談しているメールやライン等の履歴などが考えられます。
また、パワハラによって体調を崩している場合には、病院に行き、診断書も作成してもらいましょう。