「えっ、リサさんがマッチングアプリに登録していたの?!」。首都圏の大学生ケンタさんは、友人の女子大学生がマッチングアプリに登録していたことをグループラインで知り、その意外性に驚きました。
登録がわかったのは、リサさんと共通の友人である大学生のマサオさんがバラしたから。マサオさんがマッチングアプリを使っていたところ、リサさんが「ユイ」という名前で登録しているのを発見したそうです。
黙っておけばいいのに、マサオさんはグループラインでスクリーンショットを投稿。「男が欲しいんだろ」などの暴言も吐いて、すべてをバラしてしまったのです。
以後、リサさんのニックネームは「ユイ」になってしまい、リサさんはとても嫌がっているそうです。マサオさんの行為は犯罪ではないのか。リサさんはマサオさんに損害賠償請求できるのでしょうか。中西 祐一弁護士に聞きました。
●マッチングアプリに登録していた事実をバラす行為は「犯罪」?
リサさんがマッチングアプリに登録していたことをバラしたマサオさん。このような行為は「名誉毀損罪」にあたるのでしょうか。
「名誉毀損罪は、『不特定又は多数の人物が認識し得る状況で、他人の社会的評価が害される可能性のある事実を示した』場合に成立します。
この点、『マッチングアプリに登録している』という事実自体がリサさんの社会的評価を低下させる恐れがあるか、という点については、難しいのではないかと思います。
マッチングアプリは、独身の方が利用するのであれば、利用すること自体が社会的評価を低下させるとまではいえないと思います。これが、既婚者が利用しているとか、独身であっても『パパ活のために利用している』などということになると、社会的評価を低下させることとなる可能性が高いと考えられます」
マサオさんに民事上の損害賠償を請求することも難しいのでしょうか。
「マサオさんの行為は名誉毀損にはあたらないとされる可能性も高いと思います。名誉毀損にあたらないと判断された場合は、『名誉毀損を理由とする損害賠償請求』は認められないことになります」
●プライバシーの侵害にあたる?
では、リサさんの「プライバシーを侵害した」として、損害賠償を請求することはできるのでしょうか。
プライバシーの侵害といえるためには、公開された内容が以下の要件をみたす必要があるとされています。
(1)私生活上の事実または私生活上の事実と受け取られるおそれがあること、 (2)一般人の感受性を基準にして、当該私人の立場に立った場合に公開を欲しないであろうと認められることがらであること(一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること)、 (3)一般の人々に未だ知られていないことがらであること
そして、このような公開によってリサさんが実際に不快、不安の念を覚えたことが必要とされています。
マッチングアプリは婚活を目的とするもの、友達探しを目的とするものなどさまざまです。婚活を目的としたマッチングアプリを利用していた場合は、高度なプライバシー情報であると判断される可能性もあるでしょう。
一方、広く出会いを探すことを目的とするアプリであれば、利用者の目的はさまざまです。近所に住む友達を探す人もいれば、恋人探しなどを目的とする人もいます。このようなアプリへの登録がプライバシー情報といえるのかは判断が分かれそうです。
今回の事例は、『女子大学生がマッチングアプリを利用している』という事実が、社会的にどのように評価されるかによって結論が左右されると思われます」