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セミセルフレジで支払いせずに逃げた客…「損害は店員負担」ルールに問題は?
セミセルフレジ(弁護士ドットコム撮影、東京都内、2020年6月)

セミセルフレジで支払いせずに逃げた客…「損害は店員負担」ルールに問題は?

セミセルフレジを導入する店舗が増えている。店員が商品のバーコードを読み取り、精算は客がレジ付近に設置された精算機でおこなうシステムだ。

レジ待ち時間の短縮や人件費の削減などのメリットがあるが、客が代金を支払わずに逃げてしまう可能性もゼロではない。もし客が代金を支払わなかった場合、店員が責任を取らなければならないのだろうか。

●店員に責任を取らせることに「法律上の根拠はありません」

弁護士ドットコムにも「客が支払わなかった場合は、対応したレジの担当者が自腹で支払うよう言われた」という相談が寄せられている。

平山諒弁護士も「聞き及ぶところでは、たしかに『セルフレジで売り上げ金の額の違いが出たときは自腹を切るように』などと、レジ担当者が責任を取るようにと言われたとの声があるようです」と語る。

しかし、「店員にそのような責任を取らせることに法律上の根拠はありません」と平山弁護士は強調する。

「たしかに、レジ担当者は商品の読み取りや客の対応、そして客をセミセルフレジに誘導して支払いをおこなうよう案内する、という業務を担っています。

その中で、あえて客が支払いをしないのを知りながら意図的に見逃した場合や、居眠りをしたりサボったりしている間に客が商品を持ち逃げするのを許してしまったというような極端なケースであれば、『店員の重大な過失により店舗に損害を与えた』として損害賠償義務、すなわち自腹で責任をとるべきという話も理屈ではあり得るでしょう。

しかし、レジ担当者が普通に業務をしていた場合(言いかえれば、通常求められる程度の注意を払っていた場合)において、客が隙を見て代金を払わずに逃げてしまったり、何か不正をして支払いを誤魔化したりしたようなケースまで、個々の従業員にその損害の責任を取らせるというのは法的には無理な話です。

あえて法律的に言えば、損害賠償義務の発生要件のひとつである『過失』が存在しないという言い方になると思います。

セミセルフレジの導入によって店員の人件費を削減したり客の回転数を上げたりして利益獲得を図っているのはお店の方針です。そのシステム導入の反作用として『レジ通過時の未収金』が生じたとしても、それはお店が最初から含み入れているコストだといえます。そのため、店員に補填を求めるのは、常識的に考えても道理が通らないでしょう」

●自腹で支払うよう求められたら「堂々と断るべき」

相談者のように、会社側に自腹で支払うよう言われた場合はどのように対応すればよいのだろうか。

平山弁護士は「そのように求められたとしても、堂々と断るべきでしょう」と語る。

「あえて意図的に未払いを見逃したというような極端な例外ケースを除きますが、『レジを担当した店員だから』というだけで、代金を自腹で支払わねばならないというような責任は生じません。

もし、それでも執拗に『売り上げとの差額を自腹で負担する義務があなたにはある』『あなたが担当していたのでしょう』『責任を取りなさい』などと強く言ってきた場合は、いわゆるパワハラにあたる可能性もあります。

また、これが原因で解雇等になった場合は、不当解雇にあたる可能性が非常に高いため、場合によっては解雇無効や損害賠償を求める訴訟という話にもなります。

セミセルフレジでのトラブルというような小さなきっかけで、そこまで話が大ごとになるのはとても気持ちの良いものではありません。世の中が便利になるにつれて、今まで考えもしなかったような新しいトラブルも出てくるのだなあと不思議な心持ちになります」

プロフィール

平山 諒
平山 諒(ひらやま りょう)弁護士 府中ピース・ベル法律事務所
中央大学法学部、一橋大学法科大学院卒。労働事件中心に地域の事業者の企業問題に注力。府中ピース・ベル法律事務所代表。

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