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リモートは「長時間労働」の温床になる? 自宅労働が算入されない「労災認定」に疑問
川人博弁護士(2020年6月17日/弁護士ドットコム撮影)

リモートは「長時間労働」の温床になる? 自宅労働が算入されない「労災認定」に疑問

三菱自動車工業の社員だった男性が、会社の寮で過労自殺したのは、業務が原因の精神疾患によるものだったとして、三田労働基準監督署が、このほど労災認定した。一方で、男性は寮内や、自宅近所の図書館でも、会社のノートパソコンを使って仕事をしていたが、この時間はほとんど労働時間として算入されなかった。遺族側の代理人をつとめた川人博弁護士は疑問を投げかける。

●自宅労働は「労働時間」として算入されない

遺族側の代理人が、三菱自動車側から開示された入退室記録、勤怠管理データ、社内システムのログイン・ログオフデータ、ノートパソコンのシステムログ・ファイルアクセス記録などに基づいて集計したところ、発症(2019年2月5日)前1カ月、男性は「153時間47分」の時間外労働があった。

ところが、三田労基署は、精神疾患の発症前1カ月は、「139時間31分」の時間外労働だったと認定した。会社外の自宅労働(寮内や図書館での仕事)については、ほとんど参入されなかった。上記の時間数の差は、このような理由で生じており、川人弁護士は6月17日の記者会見で「納得できない」と述べた。

●ごく例外的にしか労働時間として認定されない

なぜ労基署は、自宅労働を労働時間として認定しなかったのだろうか。

「厚生労働省の労災の考え方として、原則として、(帰宅後などの)自宅労働を(労働時間として)認めないという命題がある。自宅労働は、具体的な指揮命令下に入っていない仕事だから、という理屈だ」(川人弁護士)

川人弁護士によると、ごく例外的に、たとえば上司から夜に電話がかかって、「明日までにこの文書をつくって報告しろ」といった具体的な指示があって、その成果物(文書など)が残っている場合、自宅労働が労働時間として認定されることがあるという。

だが、実際として、会社のノートパソコンを家に持ち帰って、仕事をしている人も少なくない。

「社屋労働以外は(労働時間として)認めないというなら、社屋外では接続できないようなインターネット上のシステムにしないといけないはずだ。(しかし、ほとんどそうなっていない)現状にも関わらず、社屋から出ているから、労働時間として認めないということは、とても良くない。労災認定だけじゃなくて、長時間労働のまん延をお手伝いしているようなものだ」(川人弁護士)

●法改正も視野に入れた検討が必要になってくる

新型コロナ感染の拡大を受けて、自宅などからのテレワーク(在宅勤務)に脚光があつまった。

厚労省のガイドラインでは、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災の対象とされている。

川人弁護士によると、テレワークが今後普及していく場合、労働時間の管理をどのようにすることが妥当なのか、ということが大きなテーマになるという。仕事とプライベートの境界があいまいになり、休日や深夜、制限なく働くことになる危険性があるからだ。すでにそうした調査結果も出ている。

「コロナ感染を免れるために、通勤をしなくていい権利も大事だが、一方で、自宅において無制限に労働せざるをえない・労働時間が管理されないという問題も避けなければならない。自宅労働・テレワークから生じるマイナスの面も当然ある。法改正を含めて、それらを総合的に検討することが必要になってくる」(川人弁護士)

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