熊本地震後に「イオンモール熊本」で発生した爆発事故で、雑貨店の従業員2人が亡くなった。
熊本放送などによると、雑貨店運営会社の幹部は、一度屋外へ避難した従業員に「もし可能であれば売上金を金庫に戻してくれないか」と館内へ戻るよう求めたことを認めた。また、一度避難した従業員が館内へ戻ることができないルールを認識していたという。
大きな地震の直後は、余震や建物の損傷、火災やガス漏れなど、さまざまな二次災害の危険が高まる。こうした状況で、業務のために従業員を建物内へ戻すよう指示した場合、会社や指示した幹部はどのような法的責任を負う可能性があるのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。
●会社には「安全配慮義務違反」が認められる可能性
まず問題となるのは、会社の民事上の責任です。
会社と従業員との間には雇用契約があり、会社には従業員が安全に働けるよう配慮する義務があります(安全配慮義務・労働契約法5条)。
今回のケースでは、地震発生後は従業員が館内へ戻ることができないルールがあったにもかかわらず、会社側がこれに反して館内へ戻るよう指示したのであれば、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いと考えられます。
大地震の直後は、余震による建物崩落やガス漏れ、火災などの危険が想定されます。そのような状況では、会社には従業員の生命・身体を守るため、屋外で避難を続けるよう指示すべき義務があったと考えられるからです。
仮に、この安全配慮義務と従業員の死亡との間に因果関係が認められれば、遺族は会社に対し、損害賠償を請求できる可能性があります。
●幹部個人の刑事責任は問われるのか
一方で、館内へ戻るよう指示した幹部個人に刑事責任が及ぶかどうかも論点となります。
考えられるのは、業務上過失致死罪(刑法211条)の成否です。
もっとも、事故の直接の原因となったガス漏れや爆発は、幹部自身が発生させたものではありません。そのため、実際に立件されるかどうかは現時点では不明であり、今後の捜査結果を踏まえて判断されることになります。
刑事責任が問題となる場合、最大のポイントは、館内へ戻るよう指示したことについて「過失」が認められるかどうかです。
●焦点は「危険を予見できたか」
刑事責任の判断では、幹部が事故につながる危険をどこまで予見できたかが重要になります。
刑法上の過失とは、結果を予見できたにもかかわらず、それを回避するために必要な注意義務を怠ったことをいいます。
この点について、「危険があるという漠然とした認識で足りる」とする考え方もありますが、判例・通説では、事故の発生につながる本質的な部分を具体的に予見できることが必要とされています。
ただし、過去の裁判例では、現実の因果経過を逐一予見することまでの必要はなく、ある程度、抽象化された因果経過を予見することがあれば十分とされています(東京高裁平成27年10月30日判決など)。
つまり、通常求められる注意を払っていれば重大な事故の発生を予見し、それを回避する行動をとることが期待できたにもかかわらず、その注意を怠った場合には、過失が認められる可能性があります。
●爆発そのものではなく「重大事故」を予見できたか
今回のケースでは、大地震の直後であり、建物の損傷による倒壊やLPガス漏れ、漏電や厨房設備による火災など、さまざまな二次災害が想定される状況でした。
そのため、実際に発生したLPガス漏れによるガス爆発そのものを具体的に予見できなかったとしても、火災や爆発を含む重大事故が発生する危険については、予見可能性が認められるかもしれません。
さらに、一部メディアでは、地震直後に「ガスのような異臭がしていた」との証言も報じられています。仮に幹部がその事実を認識していた、あるいは認識し得たと認められれば、危険を予見できたことを裏付ける事情として評価されます。
現時点では、ガス爆発の原因や発生のメカニズムなどは明らかになっていません。今後、捜査によって事故原因が解明されれば、幹部個人に予見可能性が認められるかについても、より具体的な判断が可能になるでしょう。