アマゾンジャパンが運営する物流センターで、同社の委託先がセキュリティーチェックなどの時間を労働時間にカウントせず、大規模な賃金未払いなどが起きている可能性があると、しんぶん赤旗(2月8、9日)が報じている。
同紙によれば、労働者は始業5分前までに複数のセキュリティーチェックを受けなければならないという。
また、帰社時には盗難防止のための手荷物検査などもあり、始業・就業で合計20分前後がかかっているそうだ。
同紙はこれらが労働時間になりうるとして、結果的に「アマゾンが請負業者に支払う業務委託料が過少になっている疑い」があるとしている。
●潜入したジャーナリストが明かす実態
アマゾンのセキュリティーチェックについては、ジャーナリスト横田増生さんの『潜入ルポamazon帝国』(小学館、2019年)にくわしい。2017年10月に約2週間、神奈川県小田原市の物流センターに潜入したときの体験記などが収められている。
横田増生さん(2019年9月、編集部撮影)
たとえば、横田さんは業務が始まる2時間前に派遣会社に電話を入れている。急な欠勤による欠員を防ぐための決まりなのだという。
また、センターにシャトルバスが着くのは午前8時15分。その後、各所を回って複数回、出勤報告をして、午前9時から業務が始まる。
「センターの入り口でIDをかざすところから数えて、5回も出勤していることを伝えている。それにもかかわらず、あとで給与明細を見ると、午前9時からの出勤となっているようだ」(33ページ)
さらに就業後は盗難防止のため、「空港にあるような厳重なセキュリティーゲート」をくぐらなければならない。その後、ロッカーに預けた私物を回収してから帰宅となる。
「ゲートが金属に反応すると、4、5人駐在している警備員が、厳重なボディーチェックを行う。ボディーチェックとなると、5分か10分は余分に時間がかかる」(31ページ)
横田増生『潜入ルポamazon帝国』
セキュリティーゲートをめぐっては、アメリカの労働者が裁判を起こしたことがある。下級審では「賃金が発生する」との判断もあったが、最終的には2014年、合衆国最高裁判所が「賃金を払う必要はない」と判断している。
では、日本ではどう考えられるだろうか。労働問題にくわしい今泉義竜弁護士に聞いた。
●最高裁判例では、着替えなどの準備も労働時間
ーー日本ではアマゾンのセキュリティーチェックなどは労働時間になりうる?
労働時間にカウントされると言えるでしょう。
「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令に置かれている時間」を言うものとされています。実作業に従事している時間だけではなく、使用者の指示のもとで作業の準備や後処理を行っている時間、待機している時間なども労働時間にあたります。
この考え方を示した三菱重工長崎造船所事件最高裁判決(平12.3.9)は、業務の準備行為等を使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、その時間は原則として労働時間にあたるとしています。
ーー着替えも労働時間などとした有名な判例ですね
この判決で最高裁は、作業服などへの着替えの時間、準備体操場までの移動時間、作業終了後の作業服などを脱ぐ時間について労働時間であると認めました。
アマゾンの倉庫において、相当な時間のかかる厳重なセキュリティーチェックを通ることが労働者に義務付けられているのであれば、使用者の指示のもとで準備作業や事後作業を行っていると言えますので、この時間は全て労働時間にあたると考えるべきでしょう。
その場合、労働者の直接の使用者である各請負会社はこのような準備作業等も含めて残業時間を1分単位で計算して労働者に残業代を支払う義務があります。
小田原フルフィルメントセンター(C)Google
ーーアマゾンジャパンにも何らかの法的責任が生じる可能性はありますか?
アマゾンジャパンが請負会社の従業員に対し直接指揮命令をしている疑いも現場から指摘されています。
これが事実であれば、違法な「偽装請負」に当たりますので(職安法44条違反)、アマゾンジャパン本体の責任も厳しく問われることになるでしょう。