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悪質な「固定残業代」…高く設定した代わりに基本給を下げる手法、裁判で無効に
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悪質な「固定残業代」…高く設定した代わりに基本給を下げる手法、裁判で無効に

あらかじめ一定時間残業することを見越して、定額の残業代を支払う「固定残業代」。導入している会社も多くみられるが、これは「いくら働いても一定額」という訳ではない。定められた一定の時間を超えた場合には、その分だけ追加で支払いを求めることができる。

しかし、一部の企業では、追加の残業代を支払わずに済ませる手段として、基本給を限りなく低くし、固定残業代を異様に高く設定して、残業代がきちんと払われているかのように見せかける悪質な方法が横行している。結果的に月額の賃金が低く抑えられることになる。

こういった悪質な固定残業代制度の有効性を争った事件では、無効判決も出ている。

違法な固定残業代には、どういうケースがあるのだろうか。違法であると気づくためには、どのような点に気をつければいいのだろうか。あるパン製造販売の会社で正社員として働いていた男性の事件を担当した代理人、波多野進弁護士に聞いた。

●正社員登用後、基本給は半額になり固定残業代は4倍に

「今回私が担当したのは、パンの製造販売の会社で働いていた正社員の男性=兵庫県=の事案です。男性は2012年12月に時給制のアルバイト社員として入社し、翌年の4月に正社員となりました。

男性は勤務中、恒常的に150時間を超える時間外労働を行っていました。しかし、基本給が13万円なのに対し、固定残業代はほぼ同額(13万円程度)。さらに、その固定残業代は何時間分の時間外労働の対価であるかという規定もありませんでした。

同社では、アルバイト・パートの時給が840円以上(高校生・18才未満は794円)でした。しかし、男性の給与である基本給13万円を所定労働時間で割って計算すると、748円となります。これは試用期間中の基本給やアルバイト、パート従業員の時給と比べて不合理である上、兵庫県での最低賃金761円をも下回る水準となり、不自然でした。

試用期間は月300時間以上勤務しても割増手当(固定残業代)は3万円台であったのが、正社員になると、勤務時間は同程度であっても13万円と4倍近くになっています。しかし、基本給は試用期間中は23万円台であったのが、正社員になると13万円に下がっていました。

神戸地裁明石支部は、固定残業代の中に基本給に相当する部分が含まれていたため、固定残業代も無効と判断しました。当然ながら残業代を既に払ったという扱いにもなりませんでした。

このような脱法行為は労働者のただ働きを強いることを意味するので許されるべきではありません。労働者も形式的な割り振りがなされていると諦めてしまう傾向がありますので、今回の判決はそのようなことを裁判所が明確に述べた点で意義があります」

●基準のよく分からない不自然な固定残業代は無効になる

労働者が違法であることを見つけるには、どのような点に気をつければいいのか。

「基本給が異様に低く、固定残業代が高すぎるというような場合には注意してください。例えば、基本給の金額より固定残業代の方が高い、もしくは同じぐらいになっている場合には、そのような固定残業代はいくら形式的な規程がが揃っていたとしても、無効になる可能性が高いです。

また、これまで残業代の精算実績がない(固定残業代を超える差額が払われたことがない)ことも無効になる要素の一つになります。

そもそもタイムカードなどで労働時間管理をしていない会社の場合、実際の時間外労働時間を算定する気がないので、固定残業代は無効になる方向の要素となります。基準のよく分からない不自然な固定残業代は無効になるため、残業代は請求できると考えておくのが無難です」

会社で労働時間管理がきちんと行われていない場合は、どうすればいいのか。

「まずは労働時間を自ら記録しつつ、いつでも残業代を請求できる態勢を取っておくことが大切です。具体的には、LINEや携帯メールで出勤時刻や終業時刻を記録して送信する、手帳に詳細に記載するなどの自衛手段を講じておくといった方法です。

いつどのように行動すべきかは難しい面があるので、労働問題をよく担当している弁護士に相談したうえで準備すべきだと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

波多野 進
波多野 進(はたの すすむ)弁護士 同心法律事務所
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。

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