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うつ病から復帰後、昇進の打診…「ストレス、長時間労働の不安」を理由に辞退できる?
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うつ病から復帰後、昇進の打診…「ストレス、長時間労働の不安」を理由に辞退できる?

「昇進」と聞くと、喜ばしいことに思えるが、責任が重くなったり、新しい仕事が増えたりして、気持ちが暗くなってしまう人もいるようだ。

ネットの掲示板に悩みを打ち明けていたCさんもその1人で、うつ病を理由に昇進の打診を辞退したいと思ったという。Cさんは、うつ病を理由に1年ほど休職し、その後復帰した。しかし、現在も2週間おきに通院し、服薬している。管理職になると長時間労働やストレスが原因で悪化し、また休職するのではと不安になっている。

うつ病を理由に昇進の打診を辞退できるのか。また、うつ病などの病歴がなく、単に「責任を負いたくない」「出世欲がない」などの理由で辞退することもできるのか。寺岡幸吉弁護士に聞いた。

●昇進を拒否してもいいのか?

「結論からいえば、今回ケースでは、人事権の濫用であって、無効とされる可能性があります」

なぜ、そのような結論になるのか。寺岡弁護士が順に解説する。

「まず『昇進』の定義は、突き詰めて考えると難しいのですが、ここではごく簡単に、会社での役職が上昇することと考えておきます。役職は、会社での指揮命令系統(例えば、社長→専務取締役→部長→課長→係長)の中に位置するので、役職が上になれば、その人の権限が大きくなり、それに伴って賃金も上昇するのが通常です。

しかし、権限が大きくなればストレスも増えるし、労働時間も長くなりがちです。しかも、昇進によって管理監督者(労働基準法41条2号)になった場合などには、時間外割増賃金が支払われなくなる結果、労働時間が長くなっても手取り賃金が下がることもあります。これらの理由から、昇進を望まない人もいます」

そもそも「人事権」とは、どのような権利なのか。

「会社が従業員を昇進させる根拠は、会社が持つ『人事権』にあるとされています。『人事権』によって、会社は、命令系統の中で従業員をどのような地位に置くかを決める、広い裁量を持つと考えられています。

もっとも、どの従業員についても人事権の裁量の範囲は同じではありません。例えば、将来、会社の経営を担う幹部従業員になることを前提とされている、いわゆる総合職については裁量の範囲は広くなります。一方で、業務の補助を行うパート従業員については、裁量の範囲は狭いと考えられます。

それ以外にも、会社の裁量権を制限するものとしては、人事権の行使について、権限の濫用となる場合があります。会社が人事権を行使して従業員を昇進させることが、その従業員の人権を不当に侵害するなどの結果を招く場合には、その人事権の行使は権限の濫用として無効とされます」

●昇進拒否することのデメリットも

今回のケースではなぜ、人事権の濫用となる可能性があるのか。

「うつ病の人について、本人だけでなく、医師も、昇進によって病気を悪化させる危険性が高いと判断するような場合には、それをも顧みず昇進させることは、人事権の濫用であって、無効とされる可能性があります。

それに対して、単に『責任を負いたくない』『出世欲がない』という理由だけでは、法律的には認められないでしょう。昇進させることは、適正な人事権の行使の範囲内と考えられますので、この行為は有効だと考えられるからです。

もっとも、昇進を望まない人を無理やり昇進させても、指揮命令系統が機能しない可能性があることなどから、会社が昇進拒否を受け入れることも十分あり得ることです。ただし、その場合には、再度の昇進の機会が与えられる可能性はかなり低くなると考えられますので、昇進を拒否する場合には、今後の自分の人生設計等を十分検討されることが必要です」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

寺岡 幸吉
寺岡 幸吉(てらおか こうきち)弁護士 落合・深澤法律事務所
社会保険労務士を経て弁護士になった。社労士時代は、労働問題を専門分野として活動していた。弁護士になった後は、労働問題はもちろん、高齢者問題(成年後見や高齢者虐待、高齢者の囲い込みなど)、高齢者問題の後に必ずやってくる相続の問題などにも積極的に取り組んでいる。

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