厚生労働省は10月20日、東京電力福島第1原発事故後の作業で被ばくした後に白血病になった元作業員に対して、労災を認定したと発表した。
報道によると、労災が認められたのは、福岡県北九州市在住の41歳男性。男性は、2011年11月から2013年12月までの間、約1年半にわたって複数の原子力発電所で働き、このうち2012年10月から2013年12月までは、福島第1原発で、原子炉建屋のカバーや廃棄物焼却設備の設置工事にあたっていた。
男性は、福島第1原発の作業員をやめた2014年1月、急性骨髄性白血病と診断され、労災を申請した。男性はこれまでの業務で計19.8ミリシーベルト被ばくしており、特に、福島第1原発での線量が15.7ミリシーベルトだった。厚労省は、原発での作業が原因で発症した可能性が否定できないとして、労災と認定した。原発事故後の作業と疾病との間に因果関係があるとして、労災が認定されたのは初めてだという。
今回労災が認定されたポイントはどこにあるのだろうか。今後こうした事例は増えていくのだろうか。また、原発作業員以外の一般市民が、被ばくして白血病になった場合はどうなるのか。原発事故の損害賠償問題に取り組む秋山直人弁護士に聞いた。
●労災認定基準が決められている
「今回労災が認定されたのは、放射線業務従事者についての労災認定基準(1976年)に当てはまったから、ということだと思います。
この基準では、白血病については、『相当量の電離放射線に被ばくした事実があること』、『被ばく開始後少なくとも1年を超える期間を経た後に発生した疾病であること』、『骨髄性白血病又はリンパ性白血病であること』という要件を挙げています。
『相当量』とは、業務により被ばくした線量が、5ミリシーベルト×被ばく業務従事年数以上、つまり、『年5ミリシーベルト以上』とされています。審査の結果、これらの要件に該当したということでしょう」
秋山弁護士はこのように述べる。今後こうした事例は増えていくのだろうか。
「朝日新聞の報道によると、原発事故から2015年8月までの間に、累積被ばく線量が5ミリシーベルトを超えた原発作業員は約2万1000人を超えていて、うち20ミリシーベルト超は9300人あまりにのぼるということです。今後、同様に白血病を発症して、労災認定される原発作業員が増えていくのではないかと予想します」
作業員以外で被ばくした市民については、どう考えればいいのか。
「原発作業員以外の一般市民は、原発事故によって年間5ミリシーベルト以上の被ばくをして、白血病になったとしても、労災認定のような制度はありません。
原発ADRや裁判の手続で賠償を求めることが考えられますが、原発事故と発症の因果関係を証明することには相当の困難を伴うでしょう」
●現に存在する法規制が軽視されている?
労災認定の基準は、どう決められているのだろうか。
「労災認定基準は、制定当時の一般公衆の被ばく限度が年5ミリシーベルトであることを1つの材料として決まったようです。
その後、一般公衆の被ばく限度は、ICRP(国際放射線防護委員会)の2007年勧告に従い、年1ミリシーベルトとされ、さらに厳格になっています(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則等)。この規制は、原発事故時も現在も有効な規制です。
また、労働安全衛生法及び同法施行令に基づき定められている『電離放射線障害防止規則』では、年間5.2ミリシーベルトを超えるおそれのある区域を放射線の『管理区域』と定め、厳格な規制を行っています。
管理区域を標識によって明示しなければならない、必要のある者以外の者を管理区域に立ち入らせてはならないといった内容です。この規制も、原発事故時も現在も有効に存在しています」
とても厳格な規制が敷かれているわけだ。
「にもかかわらず、政府は、『空間線量が年20ミリシーベルト以下であれば、発がんリスクは、他の発がん要因によるリスクとも比べて低い』などとして、年20ミリシーベルトを下回った地域については、避難指示を解除できるとしています。
今回の労災認定は、原発事故前からの基準が適用された結果、労災が認定されました。原発作業員にとっては意義のあることでしょう。
しかし、労災認定以外の場面では、原発事故前から存在し、現に存在するはずの法規制が軽視され、放射線量についての基準がなし崩し的に緩められているのではないか、と感じざるを得ません」
秋山弁護士はこのように指摘していた。