個人で仕事を請け負って、建設現場などで働く「一人親方」。その過酷な実態が、厚労省の調査で明らかになった。2013年7月~12月の半年に、48人の一人親方が死亡していたのだ。同じ年、建設現場の労災事故で亡くなった人は年間366人。この数字と比べてみても、一人親方の事故死数は決して小さな数字とはいえない。
ところが、一人親方が仕事中に事故死したケースはこれまで、労災事故の統計にカウントされていなかったという。一人親方は企業と雇用契約を結んだ「労働者」と違い、自ら事業をおこなう「経営者」とみなされるためだ。
そうすると、一人親方は、労災の対象にはならないということだろうか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
●労災保険の「特別加入制度」がある
「一人親方とは、主に建設業などで、自分自身(と家族など)だけで、労働者を雇用せずに事業をおこなう事業主のことです。
形式上は事業主となるため、労災保険制度の『枠外』とされています。しかし、その実態をみると、労働者に極めて近いケースもあります。
そのため、労災保険には、『特別加入制度』が用意されています。その制度を活用することで、一般労働者の労災と同種の補償を受けることができます」
一般労働者の労災との違いは、どこにあるのだろうか?
「雇用されて働く場合、労災に入るのは『雇い主』の責任ですね。しかし、一人親方には雇い主がいないため、労災制度に入るかどうかは、その事業主が決めることになります。そのため、特別加入制度に入っていない場合が往々にしてあるのです」
●「実質的には労働者だ」と認定されれば、労災が認められる
一人親方の場合、労災保険に特別加入しないケースが少なくないということだが、保険に入っていなければ労災は認められないのだろうか。
「形式的には一人親方であっても、『実質的には労働者だ』と判断され、労働者性が肯定されれば、労災補償を受けられることがあります」
その判断基準は?
「行政の先例や裁判例では、労働者性の有無について、次のようなポイントを考慮したうえで総合判断されています。
(1)指揮監督関係・裁量性があったかなかったか
(2)その業務以外の業務に従事する可能性があったかどうか
(3)報酬の性質(労務に対する対価か、仕事の完成に対する対価か)
(4)仕事を引き受けるか断るかの選択権があったかどうか
(5)仕事用の機械・器具は誰が用意していたか
(6)拘束性があったかどうか」
●元請け業者に損害賠償請求できる場合もある
では、どんな事例ならば、一人親方でも実質的な「労働者」だとみなされ、労災支給がされるのだろうか。
「たとえば、ある一人親方が、日当仕事の現場作業を頼まれ、その作業中に負傷した事案で、労働者性が肯定されたケースがあります。
労基署は、この一人親方が作業現場で使用者側の指揮監督を受けていたことや、報酬が日当という形で『労務の提供の対価』として支払われていた点などを踏まえて、労災支給決定をおこなっています。
このように、一人親方(事業主)が労災保険の特別加入制度の手続きをしていなかったとしても、労働者性が肯定できれば、労災補償の対象になりえます」
労災認定においては、形式よりも実態が重視されるということのようだ。また、場合によっては、労災認定がされなくても、元請け業者の責任を問えるケースもあるという。
波多野弁護士は「建設現場において、安全対策や安全教育などが不十分だったために事故が起こり、一人親方がケガをしたり、亡くなってしまったとします。そのような場合、仮に一人親方が特別加入制度や労災補償制度で救済されないとしても、現場の安全を確保する義務のある元請け業者などに対して、民事の損害賠償請求ができる可能性があります」と話していた。