「前の車遅すぎる。もっとスピード出すか、道を譲ってくれないかな」。山間部の片側一車線の道路で、会社員のショウタさんはいつもいらだっている。
山間部の道路は、通行量が少なく、ほとんど車が走っていないこともあるため、スピードをそれなりに出していると、前方を走る車に追いついてしまい、ピッタリくっつくように走ることがあるそうだ。ルール上、追い越しが可能な場合もあるが、不可能な状況も多い。
前の車に何とかしてほしいという気持ちはあるが、車間距離を狭めすぎると、「あおり運転」になってしまうのではないかと気にしている。
車間距離を狭めることの法的問題について、渡辺伸樹弁護士に聞いた。
●狭めすぎると車間保持義務違反。繰り返すと免停の可能性も
「最近ニュース等でよく取り上げられる『あおり運転』ですが、実は法律上に明確な定義があるわけではありません。
一般的には、前方車両に著しく接近する行為、幅寄せ行為、追いまわし行為、不必要な急停止行為など、他の車両の通行を妨害し交通の危険を生じさせる行為を総称してあおり運転と呼ばれています」
今回のショウタさんのように、車間距離を狭めることはどうなのか。
「前方車両との車間を狭める行為は、程度によっては車間距離保持義務違反として1~2点の違反点数が加算され、道路や車両の種類に応じて5000円~12,000円の反則金を納付する必要が生じます。あおり運転を繰り返し、道路交通法(以下『道交法』)に定める『危険性帯有者』に該当すると判断されれば最大180日間の免許停止処分が科されることもあります。
道交法には、車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けるため必要な距離を保たなければならない旨の規定があります(道交法第26条)。
確保しなければならない車間距離は走行速度等によって異なりますが、前方車両が急ブレーキをかけたと仮定して、回避が間に合うかどうかという観点から適正な距離を保たなければならないということです」
罰則はどうなっているのか。
「あおり運転の態様が悪質な場合、暴行罪として刑事罰の対象なることもあります。人身事故を起こした場合は、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪に問われることもあります。危険運転致死傷罪の法定刑は極めて重く、『致傷』で15年以下の懲役刑、『致死』で1年以上(20年以下)の有期懲役刑が科されることになります。
どんな田舎道であっても、どんなに急いでいる事情があったとしても、前方の車とは適切な距離を保って運転することが大切といえるでしょう」