交通事故でケガさせた相手から「症状が悪化した」と言われた——。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
相談者は車を運転中、自転車との衝突事故を起こした。被害者はすぐ病院へ向かい、「擦り傷、打撲、むちうち」と診断された。命に関わるケガでないことにその場はひとまず安心したそうだ。
ところが、事故から2カ月後、思いがけない展開になった。被害者の体調が悪化したのだ。被害者側から「舌が回らない、味覚障害、頭痛などの異変が起こっており、近いうちに脳神経外科を受診する予定」だと伝えられたという。
相談者としては、被害者の体調悪化と交通事故の関係がはっきりせず、今後どこまで責任を問われることになるのか不安を感じているようだ。なお、対人賠償保険には入っているという。
交通事故で受けたケガが当初軽傷でも、目に見えない部位などがのちに重症化することはあり得るが、その症状が事故によるものかがにわかに判断できない場合、どう対応すればよいのだろうか。中村友彦弁護士に聞いた。
●「後から重症化」、事故と関係ないケースも少なくない
——時間が経過してから体調悪化を告げられたようです。
軽傷であったのに、交通事故から2カ月たって重症化ということですが、2カ月も時間が経過しているのであれば、当該症状は基本的に交通事故とは関係がない可能性が高いです。
もちろん、後から出てくる症状はあり、私が過去に扱った事案でも、半年以上経過して背中の痛みが出現し、主治医から詐病扱いをされるなどしましたが、他病院で精査したところ、外傷性てんかんによるものだと判明したことはありました。
ただ、このような事案はあくまで例外ですし、長期間経過したのち症状が出現して交通事故との因果関係が認められた事案は、事故態様、事故当初の負傷内容や医師が見落としていたなどの事情から、交通事故と悪化した症状との間に因果関係を認めるのが相当と言えるものばかりです。
——法的責任はどうなるのでしょうか。
交通事故との因果関係が不明であれば、当初の軽傷という評価が誤っていて、悪化した症状の原因が見落とされていたなどの事情がない限り、当該症状について、民事責任及び刑事責任を負う理由がありません。
——はっきりとしない状況に相談者は不安を感じているようです。
相談者側としては、大学病院等で精査を求め、事故と因果関係があるということがわかるまで、特に対応する必要はないと思います。
また、医師が「事故との因果関係は不明」と述べている段階で刑事責任を問われる可能性は低いので、現時点、刑事責任についてもそれほど心配する必要はないと思います。
——相談者は対人賠償保険に入っているようです。
対人賠償保険に入っているなら、保険会社に任せておけばよいですが、保険会社も因果関係を認める対応をすることはないのではないかと思います。