大川原化工機(横浜市)の社長ら3人が無実の罪で逮捕された冤罪事件。
逮捕された元顧問の相嶋静夫さんは、勾留中にがんが見つかったものの、身体拘束を解かれないまま亡くなった。
この事件で、逮捕状や勾留状の発付、保釈請求の却下などに関わった裁判官37人の判断は違法だったとして、相嶋さんの遺族が国に損害賠償を求めている。
10月30日に東京地裁で開かれた第2回口頭弁論では、相嶋さんの次男が意見陳述し、父親の身体拘束が続いたことへの疑問を投げかけた。
「一番、罪証隠滅したのは裁判官に他なりません」
警察や検察の捜査をチェックするはずの裁判所は、なぜ止められなかったのか──。次男は裁判官の責任を厳しく問いかけた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●「父は一体、何を隠滅できたのか」裁判官の判断に疑問
この日、相嶋さんの次男は法廷で、「父を失った息子として、同じ会社の部下として意見を述べます」と切り出した。
相嶋さんは「罪証隠滅のおそれ」があるとして、身体拘束が続いた。次男は、その判断に疑問を示した。
「法律の条文は、隠すことができませんし、機械の構造や温度も、人が口裏を合わせることで変わるものではありません。 そもそも家宅捜索で、必要な証拠はすべて押収しています。それでは、父は一体、何を隠滅することができたのでしょうか」
さらに、「もう一つ大きな疑問を持っています」として、裁判所の責任を問いかけた。
「本来、警察や検察から独立して、本当に犯罪の嫌疑があるのか、本当に逮捕や勾留が必要なのかを、審査するために裁判官がいるはずです。 違法な捜査が進んでいたのであれば、なぜ裁判所は、それを止めることができなかったのでしょうか。 裁判所は拘束を正当化する際、証拠保全が目的と言われますが、一番重要な証拠である、父の生命を蔑ろにした拘束とは、完全に矛盾しています。 一番の罪証隠滅をしたのは裁判官にほかなりません」
最後は、裁判長に向けてこううったえた。
「裁判所の運営や運用などを優先することなく、独立し、法律と良心に基づき審理して頂くようお願いいたします」
期日後に記者会見を開いた原告と代理人弁護士ら(2026年10月30日、東京・霞が関の司法記者クラブで、弁護士ドットコムニュース撮影)
●国側「裁判官に違法、不当な目的はなかった」
裁判官の判断が違法だったといえるのか。今回の裁判では、国家賠償法上の責任を認めるための条件が争点となっている。
遺族側の代理人によると、国側は準備書面で、1982年(昭和57年)の最高裁判決が示した基準に従って判断すべきだと主張している。
この最高裁判決は、別の民事裁判で敗訴した原告が、担当裁判官の法令解釈に誤りがあったとして、国に賠償を求めた訴訟で示されたものだ。
最高裁は、裁判官の判断が国家賠償法上違法となるには、裁判官が「違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど」、与えられた権限の趣旨に明らかに背いたといえる「特別の事情」が必要だと判断した。
国側はこの判例を根拠に、今回の事件でも、裁判官が違法・不当な目的で判断したなどの「特別の事情があると認め得るような事情はない」と反論しているという。
記者会見で話す相嶋さんの次男(2026年10月30日、東京・霞が関の司法記者クラブで、弁護士ドットコムニュース撮影)
●遺族「37人の裁判官は何を根拠に判断したのか」
これに対し、遺族側は、1982年の最高裁判決が示した「違法又は不当な目的をもつて裁判をした」は、あくまで例示にすぎないと主張している。
そのうえで、37人の裁判官がそれぞれ、どのような資料に基づき、何を根拠に判断したのかを明らかにする必要があると訴えている。
期日後の記者会見で、弁護団長の高野隆弁護士は、逮捕状の発付や保釈をめぐる裁判官の判断について、次のように指摘した。
「判断の基礎となる資料に、弁護人や被告人はアクセスできない。その構造自体が問題です」
また、相嶋さんの長男は、別の裁判で警察や検察による捜査の違法性が認定されていることに触れ、こう語った。
「大川原化工機事件が何だったのかと考えると、刑事司法に関わる機関が法律を犯し、大川原化工機だけが法律を守っていたという事件だと思う。唖然とするが、今の日本はこういう国なんだと、みんなが知る必要がある」