女性になりすまして、性的な内容のメッセージを不特定の人に送ったとして、名誉毀損の罪に問われた経済産業省のキャリア職員の男性(50代・起訴休職中)に対し、東京地裁は11月6日、拘禁刑1年、執行猶予3年(求刑:拘禁刑1年6カ月)を言い渡した。
多田裕一裁判長は、犯行の動機を「自己中心的で幼稚な動機」と批判。一方、被害女性との示談が成立し、女性が処罰を望んでいないことなどを考慮して、刑の執行を猶予した。
被告人は10月の公判で、女性や自身の家族らに謝罪の言葉を繰り返し、「人として正しく生き抜きたい」と述べていた。
●異動は「女性の申告が原因」と考えた
判決によると、被告人は2026年3月から5月にかけて、川崎市などの漫画喫茶のパソコンを使い、インターネット上の性的な内容を扱う掲示板への書き込みに応じてきた不特定の人たちに、女性を装ってメッセージを送信した。
メッセージには、女性の氏名や写真、電話番号などとともに、「激しく責められたいです」などと、女性が特定の性的嗜好を持っているかのような内容を記載。計146のメールアドレスに147回にわたって送り、女性の名誉を傷つけた。
犯行の背景には、勤務先での異動をめぐる被告人の思い込みがあった。
裁判所は、被告人が自身の異動が女性の申告によるものだと考え、「そうした申告は良くないことであるとわかってもらうため」に犯行に及んだと指摘。こうした動機を「自己中心的で幼稚」と厳しく批判した。
女性はその後、性的な内容の連絡が多数寄せられるようになったという。
裁判所は、メッセージを受け取った人たちが、女性には記載されたような性的嗜好があると受け取り、連絡してきたものと考えられると指摘。女性の名誉が傷つけられただけでなく、生活の平穏も害され、通院が必要になるほどの精神的苦痛を受けたと認定した。
●示談成立、女性は処罰を望まず
一方で、被害女性と示談が成立し、女性が被告人を許す意思を示していることや、示談に従って被害の弁償がされたとみられることを「相当程度、考慮すべき事情」とした。
被告人が事実を認めて反省していることや、社会的制裁を受けていることも考慮した。
そのうえで、犯情から罰金刑を選択できる事案ではないと判断。拘禁刑を選びつつ、刑の執行を猶予した。
判決が確定すれば、被告人は国家公務員法の規定により失職する。
被告人は判決の言い渡しを静かに頷きながら聞いていた。
多田裁判長は「この刑は被告人にとって重いものと理解しています」と語りかけた。
●「いつか殺されてしまうのではないか」女性が感じた恐怖
10月23日の公判で、被告人は公訴事実を争わず、女性に根拠のない疑いを抱いたことが犯行の発端だったと説明した。
女性になりすまし、性的な内容のメッセージを送った理由については「被害者さまは自尊心が高いかたとうけとめ、そのような表現ぶりを気にすると思った」などと述べていた。
一度インターネット上に広まった個人情報を完全に消し去ることは容易ではない。
被告人の犯行により、女性には性的なメッセージが多数届き、携帯電話が鳴り止まない状態になったという。
女性は「いつか殺されてしまうのではないか」とする恐怖を感じるほど、追い詰められていたという。
被告人は、自身の行為が女性の人生に「大きな負の影響を与えた」と述べ、謝罪の言葉を繰り返した。
今後については「経験を活かして世の中に貢献したい」と語った。
23日の公判では閉廷の際に裁判長、検察官、傍聴席にそれぞれ一礼した。
経産省は、被告人が逮捕された6月、「誠に遺憾」としたうえで「省内の服務規律の徹底を図ってまいります」との見解を示していた。
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)