2019年07月04日 09時38分

「保釈中の逃走」報道に批判殺到、裁判所の判断は適切だったのか?

「保釈中の逃走」報道に批判殺到、裁判所の判断は適切だったのか?
裁判所(小野真志/PIXTA)

実刑判決が確定したあと、刑務所に収容されようとしていた男性が神奈川県愛川町の自宅から逃走した事件。男性は逃走から4日後の6月23日、神奈川県横須賀市のアパートで見つかり、公務執行妨害で逮捕された。だが、そもそも保釈されていたことについて、疑問や批判の声もあがっている。

報道によると、男性は6月19日、横浜地検の職員5人が収容のために自宅に訪れた際、刃物のようなものを振り回した疑いが持たれている。男性が自宅近くにとめてあった車で逃走したため、県警が公務執行妨害の疑いで全国に指名手配した。

男性は、窃盗罪などでの罪で起訴されて、罪を認めたことなどから、2018年7月に保釈された。同年9月、横浜地裁で懲役3年8カ月の実刑判決が下されたが、控訴して同年10月に再保釈された。2019年2月、実刑判決が確定したが、検察から出頭を命じられたにもかかわらず、応じていなかった。

司法統計などによると、保釈率はあがってきている。今回のケースも一部報道で「保釈中」との文言が踊っている。はたして、裁判所の判断をどう考えるべきだろうか。刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。

●罪を認めないと保釈されない「人質司法」

保釈は、裁判所に保釈保証金(保釈金)を預けることによって、起訴された被告人(起訴前には保釈が認められていない)を勾留から解放する制度です。保釈が認められて、裁判所に保釈金を納めると、被告人は拘束を解かれて、外に出ることができます。

被告人には、一定の事由がある場合を除いて、保釈される権利がありますが、保釈されない理由として、法律は「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」を規定しています(刑事訴訟法89条4号)。

ところが、被告人が起訴事実を否認すると、裁判官は、この理由があると認定して、保釈を許可しない運用がされています。

そのため、罪を認めないと保釈されず、否認すれば数カ月ないし数年間、身柄を拘束されたまま裁判を受けるということになります。こうした刑事司法の運用が「人質司法」と呼ばれています。

本来、起訴事実を否認する場合は、被告人が無罪の可能性があるのですから、被告人を身柄拘束から解放して、刑事裁判において十分な防御活動を保障すべきと考えるのが、無罪推定の原則(有罪判決が言い渡されるまでは無罪と推定される原則)からして当然の要請でしょう。

しかし、わが国では先に述べたように、裁判官は、無罪を主張して罪を争う被告人には罪証隠滅の危険性があると考え保釈を許可せず、逆に自白して有罪を認めた被告人にはその危険性はないと考えて保釈を許可するという判断を下す傾向にあります。

自白すれば身柄拘束から解放されて、否認すれば身柄拘束が続くというのですから、裁判官が自白強要に加担しているのが、わが国の刑事裁判の実態です。

●保釈率があがってきた背景

このようなわが国の刑事司法の運用について、これまで国連の規約人権委員会から、その是正を再三勧告されてきました。しかし、今日に至るまで根本的な改善されていません。

日産前会長のカルロス・ゴーン氏の事件においては、ゴーン氏が世界的な著名人であったことから、あらためて、わが国の刑事司法制度が注目されて、世界の人権団体やメディア等から「中世のような司法制度」などと批判される事態となりました。

近年、保釈率があがってきたのは、このような国連などからの批判や、裁判員制度の進展の中で、刑事裁判の原則に適った運用をしようとの意識が、裁判官の中に生まれてきたからだと考えられます。

●「保釈率上昇を問題視するのは誤り」

神奈川県のケースは、報道によると、地裁で実刑判決となり、控訴したものの高裁で控訴が棄却されて、実刑判決が確定した男性が、その実刑判決に基づく刑の執行過程で逃亡したという事例です。

高裁で控訴棄却の判決が宣告された時点で保釈の効力は失われますので(刑訴法343条)、保釈中に被告人が逃亡したというものではありません。刑の執行過程で、実刑確定者の逃亡を招いてしまったのですから、刑の執行機関の責任者である検察官(刑訴法472条)の失態というしかありません。

ところで、そもそも、この男性が高裁の審理の際に保釈されていなければ、刑の執行のための身柄収容という問題も起こらず今回のような逃亡もなかったことから、裁判所の保釈判断を批判したり、さらには保釈率上昇についても疑問視したりする向きがあるようです。

しかし、被告人が保釈された状態で裁判を受けて、実刑判決の確定により刑が執行されるというのは通常ありうる事態です。今回のケースが示す教訓は、刑の執行確保についての体制整備に気を配ることにあり、「人質司法」からの脱却に向けた保釈率上昇を問題視するのは誤りでしょう。

●裁判所の保釈審理は密室でおこなわれている

ただ、1審の実刑判決になったあとの再度の保釈は、すでに実刑判決が言い渡されて、刑の執行確保の要請も高まっています。被告人の保釈を許可するか否かの判断は、より慎重にされるべきだったでしょう。

この点、今回の裁判所の保釈判断の是非について検討するとともに、裁判官の保釈判断のための審理についても見直す必要があるのではないでしょうか。

現在、裁判官は、被告人(弁護人)から保釈の請求があると、検察官から事件記録を取り寄せて、それを読んで、保釈の許否を判断しています。被告人に面接して被告人の言い分を聞くこともしません。

つまり、検察側からの一方的な書類による書面審理のみで保釈の許否が決まるのです。

保釈判断のもとになった書類が被告人(弁護人)側に開示されることもなく、被告人(弁護人)に反論する機会も与えられていません。これでは、保釈を許可するにしても、不許可にするにしても、慎重な審理に基づいているとは言えないでしょう。

アメリカ・イギリス・カナダなどでは、保釈の審理は公開の法廷で検察官、被告人・弁護人立会いのもとで審理されて、身元を保証する家族などが出廷して証人尋問がおこなわれたりします。

わが国でも、法律上このような慎重な審理をおこなうことは可能です(刑事訴訟規則33条)。今回のケースをきっかけに、これまで密室でおこなわれていた裁判所の保釈審理の実態にも光を当てるべきでしょう。

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萩原 猛弁護士
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。
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