静岡市葵区の国道交差点で今年1月16日深夜、バイクと歩行者がぶつかり、バイクの運転手が頭を強く打って、亡くなる事故が起きました。歩行者の男性がこのほど、重過失致死の疑いで書類送検されました。
この事故では、歩行者の男性も首の骨を折る重傷を負って入院しました。当時、酒に酔って、赤信号を無視して横断歩道を渡っていたそうです。
毎日新聞によると、静岡県警は、歩行者の男性が(1)赤信号を無視して渡れば事故を招くことが予見できた(2)バイクの進行に気づいたのに回避措置をとらなかった−−と判断して書類送検したということです。
今回のように歩行者が立件されるのは、めずらしいということです。どんな場合にされるのでしょうか。交通事故にくわしい清水卓弁護士に聞いた。
●歩行者も「加害者」として立件されることがある
――まず、重過失致死罪はどのような容疑でしょうか。
重過失致死罪は、重大な注意義務の違反を犯して、人を死亡させた場合に成立する罪です。刑罰として、5年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金が定められています。
単なる過失致死罪の刑罰が50万円以下の罰金とされていることに比べて、刑事責任の重い犯罪といえます。
――歩行者の立件はめずらしいということですが、どんな場合にされるのでしょうか?
一般に、歩行者は、対自動車や対バイクとの関係では、「交通弱者」とされています。それは、交通事故によって、歩行者に死傷の結果が生じやすいからと言われています。
しかし、歩行者が交通弱者と一般に扱われていることは、必ずしも交通事故において歩行者が加害者にはならないということを意味しません。
自動車・バイク・自転車・歩行者などが存在する道路では、運転者のみならず、歩行者も交 通ルールに従って、適切に行動するであろうという相互の信頼の下、日々の運転や歩行がな されています。
一般に交通弱者とされる歩行者であっても、赤信号無視や横断禁止場所の横断など歩行者側に道路交通法上の注意義務の重大な違反が認められるような場合には、事故を起こした主たる原因は歩行者にあるものとして、加害者として立件がなされる可能性があります。
なお、今回のケースでは、周囲に目撃者がいて、複数の目撃証言があるという報道がされています。歩行者が立件された要因の1つとして、その注意義務違反を裏付ける証拠が存在したことが指摘できるでしょう。
●歩行者も交通ルールを守る必要がある
――民事の損害賠償に影響がありますか。
信号機の設置されている横断歩道に自動車・バイクが青信号に従って直進・進入したのに対して、歩行者が赤信号で横断歩道の横断を開始したことにより事故が発生したケースでは、民事の損害賠償実務上、基本となる過失割合は、「自動車・バイク3割、歩行者7割」と歩行者に不利に扱われています。
なお、自動車・バイクの過失の程度等によっては、歩行者に1、2割有利に過失割合が修正される可能性がありますが、歩行者が自動車・バイクの直前に飛び出したような場合には、自動車・バイクが免責される可能性もあります。
正確な過失割合の判定のためには、証拠に基づく判断を要しますが、今回のケースでは、 自動車・バイクよりも歩行者の過失割合のほうが大きく認定される可能性はあるでしょ う。
――いうまでもなく、歩行者も気をつけないということですね。
交通事故の被害者にも加害者にもならないよう、歩行者も、信号機の信号表示に従って行動する、横断禁止場所を横断しないなど、基本的な交通ルールを守る心掛けが必要でしょう。
また、ドライブレコーダーの設置等などよる事故状況の正確な把握・証拠化、交通事故防止・減少に向けた自動車の自動運転化の取り組みなど、技術の進歩によって、より一層の安心・安全がもたらされることに期待したいと思います。