当たり前のことかもしれませんが、図書館で借りた本は、原則として、返さないといけないことになっています。しかし、返却期限が過ぎても、返していないという人も少なくありません。それどころか、何年も手元に置いたままの人もいるようです。
ネット上で、こんな都市伝説があります。ある大学の法学部図書館で、20年以上も本を延滞している教授がいるというのです。図書館側は「取得時効」が完成しないようにと考えて、「この本はあなたの本ではありません」という内容のメールを送りつづけているそうです。
どこまで本当の話なのか、不明ではありますが、少なくとも、図書館の本を返さないのは良くないことと言えるでしょう。はたして、どのような法的問題があるのでしょうか。村上英樹弁護士に聞いた。
●「借り物」として占有している場合は「取得時効」は完成しない
「取得時効」というのは、20年間または10年間(善意かつ無過失)、「所有の意思」をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した人が、その物の所有権を取得するという制度です。
あくまで、図書館の本を「借り物」として占有しているのであれば、いつまでたっても取得時効は完成しません」
――都市伝説に登場する大学教授はどうでしょうか。
この大学教授の場合、自分のものではなく、「図書館の本」であると考えて占有しつづけているとすれば、取得時効は完成しません。
図書館が送りつづけているといわれるメールの意味は、時効が完成しないように中断するという意味ではなく、教授が占有している本はあくまでも「借り物」であるということをわからせている、つまり「教授には所有の意思がない」ことを明らかにすることにあると思われます。この話が本当であればの話ですが。
●「図書館の本は公共のものです」
――もし、図書館の本を「自分のものにしよう」という考えを持っていた場合はどうでしょうか。
そのような考えで、占有している人の場合、取得時効が成立する可能性があります。そうすると、悪い人のほうが本の所有権を時効取得できて、得をするように思われるかも知れません。
しかし、民事上の権利(所有権)を時効取得できる可能性があったとしても、刑法という面から考えると、図書館の本を返却の意思なく持ち出す行為は、場合によって、窃盗や詐欺の罪にあたる場合があります。
もちろん、1冊、2冊のことで、民事であれ刑事であれ、裁判になったり、罪に問われたりすることは実際にはまずないでしょう。しかし、図書館の本は公共のものです。本には人類の英知が詰まっているわけですから、独り占めすることは許されないのはいうまでもありません。