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「自動発券機」どころじゃない 那覇簡裁の「無効令状」、刑事司法の信頼揺らぐ
逮捕状と勾留状の発付状況

「自動発券機」どころじゃない 那覇簡裁の「無効令状」、刑事司法の信頼揺らぐ

那覇簡裁で、裁判官のチェックがないまま、逮捕状と差し押さえ令状が発付されていたことが発覚した。刑事司法への信頼を揺るがす大問題だ。

問題になっているのは、沖縄県内で起きた窃盗事件と別の傷害事件について。いずれも11月13日、裁判官の審査をへず、裁判官の印鑑がない逮捕状と差し押さえ令状が発付されていたという。

令状の発付には、裁判所のチェックが必要だが、その甘さから「自動発券機」とも揶揄されてきた。しかし、今回の事件は「甘いどころではない」ことを疑わせる。

刑事事件にくわしい萩原猛弁護士は、「単なる法律違反に留まらず、憲法違反だ」と厳しく指摘する。

●「人質司法もここに極まれり」

「わが国の刑事司法は『人質司法』と批判されてきました。このことは、最近のカルロス・ゴーン日産自動車前会長の事件を契機に改めて世界から注目されているところです。

そんな中で、今回の那覇簡易裁判所の『無効令状発付』問題は『人質司法もここに極まれり』と評するしかありません」(萩原弁護士)

人質司法とは、逮捕・起訴されると、否認し続けている限り、なかなか勾留を解かれないという問題のこと。

犯罪捜査は大切だが、何をやってもいいわけではない。人の自由を奪うのは人権侵害だ。身体拘束が長引けば、耐えきれなくなった人が嘘の自白をするなど、冤罪が生まれる可能性もある。

そこで裁判所は、基本的人権を保護するため、強制捜査についてチェックをしている。

「日本国憲法は、捜査機関の逮捕、勾留、捜索・押収等の強制捜査について、その発動に至る前に裁判官の事前審査に付し、裁判官が許可して逮捕状等の令状を発付した時に限り、これを認めています(憲法33条・35条)。

裁判官が、犯罪の嫌疑や強制捜査の理由と必要性を裏付ける証拠の有無を審査して捜査機関による不必要な身体拘束等を防止する趣旨であり、令状制度と呼ばれています」

●却下はごく少数の「自動発券機」状態

しかし、刑事事件を担当する弁護士からは、「自動発券機」という言葉が象徴するように、制度の機能不全を訴える声が多かった。

「司法統計によれば、平成29年度(2017年度)に裁判所は合計9万2522件の逮捕状を発付していますが、却下したのは僅か55件に過ぎません。発付に対する却下の割合は0.05%です。

勾留に関しては、合計10万4529件の勾留状を発付していますが、却下したのは5268件で、その割合は5%です。

この数字からも裁判官は捜査機関の言いなりに令状を濫発していることが明らかであり、令状制度における裁判官のチェック機能は形骸化していると言わざるを得ません」

●「裁判所は調査と説明を」

さらに、今回の問題は「形骸化」に留まっていない可能性を示唆する。

「形骸化しているとはいうものの、裁判官の審査自体は行われていたということに疑いを抱いた者は少なかったでしょう。今回の那覇簡裁の問題は、この裁判所に対する信頼を失墜させた極めて重大な問題というべきでしょう。 

令状審査をして令状を発付する際には、裁判官は、法律上令状に記名・押印しなければならないとされています(刑事訴訟法200条1項等)。自分が作成した令状であることを明確にするわけです。

報道によると、那覇簡裁の事例では、裁判官が令状審査をしておらず、令状も作成していないそうです。報道が事実なら、単なる法律違反に留まらず、明らかな憲法違反です」

地元紙の琉球新報(12月1日)によれば、今回の件は「職員が令状の草稿を準備し裁判官が押印する」ところ、裁判官の審査が行われなかったようだ。

「裁判官以外の裁判所職員が、裁判官の記名のある(押印のない)令状、即ち『公文書』を偽造・行使した疑い(有印公文書偽造・同行使)も払拭できません(刑法155条1項、158条)」

事件を受けて、裁判所はどうすべきか。萩原弁護士は次のように指摘する。

「裁判所は、国民に対し、事の経緯を詳細に説明すべきでしょう。いずれにしろ、このような事態を招いた原因は、日々捜査機関の言いなりに令状を濫発している裁判官ないし裁判所の令状実務における弛緩した意識や体制にあったと考えざるを得ません」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

萩原 猛
萩原 猛(はぎわら たけし)弁護士 ロード法律事務所
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。

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