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逮捕、勾留され「無罪」判決…補償はどうなる? 国を訴えたら勝てる?
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逮捕、勾留され「無罪」判決…補償はどうなる? 国を訴えたら勝てる?

無実の罪で302日間も勾留された大阪の男性ミュージシャンが、警察や検察のずさんな対応を問題視し、約1000万円の賠償金を求め、裁判で争っている。

報道によると、SUN-DYUさん(26)は2012年、大阪府内のコンビニから1万円を盗んだとして府警に逮捕された。根拠の一つは、店のドアから見つかった指紋。ところが、防犯カメラの映像から、指紋は事件5日前についたものと判明、無罪判決を受けた。

その後、SUN-DYUさんは、損害賠償など約1000万円を求め、大阪地裁に提訴。しかし、一審は捜査の違法性を認めなかった。SUN-DYUさんが控訴して、現在は大阪高裁で争っている。

場合によっては仕事を失ったり、家族がバラバラになったりする可能性もある冤罪被害。何の非もないのに、「運が悪かった」の一言で終わりなのだろうか。補償金の有無などについて、小笠原基也弁護士に聞いた。

●そもそも勾留の必要性はあったのか?

ーー勾留されると、どんなデメリットが生じる?

勾留されると、身体の自由を失いますので、通常は仕事ができなくなり、収入が途絶えることになります。また、日本の場合、推定無罪の原則が社会に浸透しているわけではないので、勾留されただけで犯人扱いされて、連日実名報道されたり、雇い主から解雇されたり、家庭が崩壊するということもありうると思います。

さらに、日本では、勾留中は電話もインターネットもできず、面会も制限されるため、精神的に不安定になったり(拘禁症状といわれています)、病気の人も十分な治療を受けられないなど、勾留から生じるデメリットは計り知れません。

ーーそもそも1万円を盗んだ疑いで、300日間も勾留することは適切?

勾留というのは、罪証隠滅や逃亡を防ぐために行われるので、このような理由・必要性がなければ、申立てまたは職権で勾留は取り消されることになります。また、保釈の請求があれば、罪証隠滅のおそれなどがない限り、これを許さなければなりません。

従って、今回の窃盗が常習累犯窃盗に当たるとか、執行猶予中の犯罪であるとか、被害者ら関係者に自己に有利な証言をするなどの働きかけを行う具体的な危険性があるとかでもない限り、保釈も認められずに裁判が終わるまでの300日間も勾留することは考えられません。

しかしながら、裁判官によっては、具体的な罪証隠滅のおそれがないのに、否認をしているというだけで、保釈も勾留取消も認めないという、誤った勾留の運用を認めて、「人質司法」を助長させる者もいるというのも現実です。

●金額が少なく、穴も多い補償金制度…国賠裁判で勝つのも難しい

ーー無罪が確定した段階で、補償はないの?

無罪判決が確定すれば、刑事補償法に基づき、拘禁された日数に応じて補償がされますが、上述したような不利益に比較して、極めて低額です。具体的には、1日あたり1000円〜1万2500円です(刑事補償法4条1項)。しかも、自動的に補償されるのではなく、無罪判決を行った裁判所に対して、無罪判決確定から3年以内に請求しなくてはなりません。

また、補償がなされるのは無罪判決のみなので、不起訴処分や、裁判中に捜査の誤りが判明した場合などに行われる公訴の取消しの場合は、補償の対象外です。

ーー補償が不十分だから裁判を起こさざるを得ないということ?

刑事補償法では、「補償を受けるべき者が国家賠償法その他の法律の定めるところにより損害賠償を請求することを妨げない」として、違法な捜査、裁判によって冤罪を生み出した場合には、先ほど紹介した補償に加え、それに関与した警察官、検察官、裁判官に対して国家賠償法に基づく損害賠償請求を行うことを当然に予定しています。

しかしながら、暴力や脅迫による取り調べなど明らかに違法なものはともかくとして、実際に捜査官が責任を問われることは、決して多くはないという印象です。また、そういう違法な取り調べですら、密室の中で行われており、弁護人が立ち会うことも認めていないため、立証が困難です。

さらに、すでに述べたような「否認しているだけで勾留を認める」というような誤った裁判について、裁判官が国家賠償法による責任を問われた例は聞いたことがありません。

ーーこれでは本当に「運が悪かった」で済まされてしまいそう。どういう仕組みに改めて行く必要がある?

冤罪に対しては、その失うものの大きさからすれば、故意・過失がなければならない損害賠償という枠組みは不適切といえます。現在の刑事補償法による補償額を、損害賠償と同様、上限なしの完全補償にするべきでしょう。その上で、違法捜査など公務員個人に責任がある場合は、国が当該公務員に対して求償を行うという制度にする必要があると考えます。また、その対象も、無罪判決のみならず、嫌疑なしや嫌疑不十分による不起訴、公訴取消し等にも広げるべきです。

加えて、実名報道の上、視聴者・読者に有罪であるかのような印象を与えた報道機関に対して、その報道と同時間ないし同一の大きさでの謝罪報道を行う義務を負わせることや、逮捕・勾留されたことを理由とする解雇や懲戒処分などの無効を認めるなど、金銭のみでは回復できない名誉などを回復するための制度を創設することも検討してはどうかと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

小笠原 基也
小笠原 基也(おがさわら もとや)弁護士 もりおか法律事務所
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員

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