「仕事に行きたくなかった」ーー。そんな理由で、交番に「刺された」とウソの届け出をして警察の業務を妨害したとして、愛知県警は2月22日、50代の団体職員の男性を緊急逮捕した。
報道によると、男性は、22日の午前7時20分ころ、名古屋市の市営地下鉄の駅構内トイレで、包丁で自分の腰を刺した後「見知らぬ男に背後から刺された」と交番に申告し、警察の業務を妨害した疑いがある。男性は調べに対し容疑を認め、「ケガをすれば、仕事にいかなくていいと思った」と話しているという。
なぜ、警察にウソの申告をしたことが警察の業務を妨害することになるのか。もし、犯罪が起きたと勘違いしたり、見間違えたりして警察に通報してしまったようなケースでも、業務妨害に問われる可能性があるのか。吉田要介弁護士に聞いてみた。
●「警察は、犯人を探すための各種業務をやらざるを得なくなる」
「警察にウソの申告をすると、警察も、そのウソが直ちに嘘であることがわからない限り、これに対応する業務を余儀なくさせられますから、ウソの申告をすることは警察の業務を妨害することになります。
もっとも、直ちにウソとわかるようなウソの申告の場合は、これに対応する業務をすることはないため、業務を妨害したことにはなりません」
吉田弁護士はこのように指摘する。今回のケースについては、どう考えればいいのか。
「今回のケースは、包丁で自分の腰を刺した後『見知らぬ男に背後から刺された』と交番に申告したというものでした。
警察は、申告がウソであることが直ちにはわからず、犯人を捜すための各種の業務をやらざるを得なくなりますから、警察の業務は妨害されたといえ、業務妨害罪が成立します。
なお、特定の誰かに刺されたと申告した場合は、虚偽告訴罪も成立することがあります」
もし、犯罪が起きたと勘違いしたり、見間違えたりして通報してしまった場合でも、業務妨害に問われる可能性があるのか。
「業務妨害罪は、過失犯(誤ってやった)ではなく、故意犯(わざとやった)です。
犯罪が起きたと勘違いしたり、見間違えたりして警察に通報してしまったようなケースは、わざとやったわけではなく、誤ってやったのですから、結果的に警察の業務が妨害されたとしても、業務妨害罪は成立しません」