「大麻を吸ったらこうなります」。そんなタイトルの動画がYouTubeに投稿され、SNSで物議を醸している。
映像には、男女2人がタイで大麻を吸う様子が映し出され、感想として「ストレスがリセットされる」「独特の多幸感がある」などと語っている。
日本で大麻の所持や使用は法律で厳しく禁止されている。では、海外で大麻を使用し、その様子をYouTube上に公開した場合、日本で法的責任を問われる可能性はあるのだろうか。寺岡慎太郎弁護士に聞いた。
●タイの法律で処罰される可能性も
薬物に関する国際的な統制は、1961年の「麻薬に関する単一条約」などにもとづいておこなわれています。大麻を含む麻薬の規制については、各国が国内法で処罰・規制を整備する義務を課しています。
ただし、条約自体が直接個人を処罰するわけではなく、「加盟国が自国の法律で処罰するよう努力する義務」を課すにとどまっています。
そのため、海外で大麻を使用したからといって、国際機関から処罰を受けることはありません。
問題の動画が撮影されたとみられるタイでは、医療目的での大麻の使用や販売は認められてきました。しかし近年、娯楽目的で使用する外国人観光客が急増し、規制強化の動きが進んでいます。
タイ政府は2025年6月26日付で、大麻を購入する際に医師の処方箋を義務付けるなど、規制を強めることになりました。
そのため、もし動画の2人が処方箋なしで大麻を購入していた場合、タイ法上の処罰対象となり得るでしょう。仮に処方箋があったとしても、公共の場での喫煙(大麻使用)によって、他人に迷惑をかけた場合は、別途処罰される可能性があります。
ただし、実際には、処方箋がなくても購入できる店が多いのが実情です。
●タイで合法に所持していれば、日本法で処罰されない
一方で、タイ国内で合法に所持している限り、日本法で処罰されることは基本的にないと考えられます。
日本では、麻薬及び向精神薬取締法で、大麻の所持・使用は処罰対象とされています。所持は7年以下の拘禁刑(同法66条)、使用は7年以下の拘禁刑(同法66条の2)が定められています。
では、これらの規定は国外での行為にも及ぶのでしょうか。
同法69条の6は、66条(大麻の所持)の罪は刑法2条の例に従う」と定め、大麻の所持について国外犯規定を適用しています。
ただし、「みだりに」「所持」することを禁じていますが(66条1項)、この「みだりに」とは、一般的に「日本および当該国双方で違法となる場合」と言われていますが、定まった見解が存在しているわけではありません。
そのため、タイ国内で合法に所持しているのであれば、日本法による処罰は及ばないと考えられます。ただし、あまりにもリスクが高い行為であることは変わりません。
●日本で違法な行為は海外でも控えるべき
動画では大麻使用を肯定的に描く表現や演出が見られますが、これ自体に違法性はありません。あくまで重要なのは、実際に「麻薬及び向精神薬取締法」で禁じられた行為に及んだかどうかです。
しかし、「海外なら合法」という誤解から、違法行為に及ぶ人が後を絶ちません。帰国後、捜査機関が動画を理由に任意の事情聴取をおこなう可能性もあります。また、SNSでの拡散によって、就業先や学校で社会的評価に影響するリスクも否定できません。
国外での行為が、日本法の処罰対象となるかどうかの判断は難しいです。少なくとも、日本国内で違法とされている行為は、外国であっても控えるべきでしょう。