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殺害目的で「抗争相手」撮影の組員逮捕…「殺人予備罪」の仕組みと恣意的運用のリスク
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殺害目的で「抗争相手」撮影の組員逮捕…「殺人予備罪」の仕組みと恣意的運用のリスク

抗争相手の暴力団幹部を殺害するために、その行動を動画で撮影したとして、指定暴力団「神戸山口組」系組員の男性が8月中旬、殺人予備の疑いで岐阜県警に逮捕された。

報道によると、男性は6月初旬、神戸山口組系の組長ら3人と共謀して、岐阜市内で指定暴力団「山口組」傘下団体の幹部が車を乗り降りする様子などを撮影した疑いが持たれている。

神戸山口組系の組長らは6月下旬、襲撃用のバイクなどを載せた車に乗って、この幹部の殺害の機会をうかがっていたとして逮捕されていた。今回逮捕された男性が撮影した動画から、幹部の行動パターンを把握しようとしていたとみられる。

暴力団の抗争がからむ事件だけに特別な背景がありそうだが、動画を撮影しただけでも「殺人予備罪」にあたるのだろうか。刑事事件にくわしい大森景一弁護士に聞いた。

●武器の入手、携帯の調達、下見・・・殺人の目的があれば成立しうる

「殺人予備罪は、殺人罪を犯す目的で予備行為をすることで成立する犯罪です。

予備行為とは、殺人の実行を可能にし、または容易にする行為をいいます。武器や毒薬などの殺害用具の入手、車や携帯電話などの調達だけでなく、被害者の家の下見や犯行計画の立案も広く含まれると考えられています。

殺人の目的がなければ、殺人予備罪にあたりませんが、判例では、殺人を他人がおこなう目的であっても、殺人予備罪の成立を認めているとみられています。

また、人を殺害することを認識していれば、その対象が不特定であってもよく、また、殺害結果が発生してもかまわないという程度の認識であってもよいと考えられています」

今回の事件についてはどう考えられるのだろうか。

「逮捕された男性に、撮影対象者の殺害のためであるという認識があれば、殺人予備罪が成立することになります。捜査機関は、男性が撮影対象者と対立する暴力団の構成員であったことから、当然、殺害の認識があったと考えて、逮捕に踏み切ったのでしょう」

●「捜査機関による恣意的な運用の余地はある」

今回の事件は暴力団員によるものだが、一般の人には影響はないと考えてよいのだろうか。

「予備罪は、予備行為とされる範囲が広く、取調べで自白が得られれば、容易に成立しうるため、捜査機関による恣意的な身体拘束や自白強要につながりかねないという問題はあります。このことは暴力団員でなくても同じです。

しかも、ほとんどの予備罪は、『被疑者国選弁護』の対象事件となっておらず、私選弁護人を依頼できなければ、弁護士による援助が得られないおそれがあります。

また、現在、予備罪がもうけられているのは、殺人のほか、内乱、放火、身代金目的拐取、強盗など限られた犯罪についてだけです。しかし、政府はさらに600を超える犯罪について、予備行為すらない場合でも処罰できる『共謀罪』の導入を試みてきており、このほど、『準備罪』と形を変えて、再度導入を検討していることが報道されています。

そのような法改正がなされれば、犯罪となる範囲は相当広くなると考えられますので、捜査機関による恣意的な運用の余地がないか、慎重に判断する必要があるでしょう」

大森弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

大森 景一
大森 景一(おおもり けいいち)弁護士 大森総合法律事務所
平成17年弁護士登録。大阪弁護士会所属。同会公益通報者支援委員会委員など。 一般民事事件・刑事事件を広く取り扱うほか、内部通報制度の構築・運用などのコンプライアンス分野に力を入れ、内部通報の外部窓口なども担当している。著書に『逐条解説公益通報者保護法』(共著)など。

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