全国でクマの市街地への出没が相次いでいる。今年6月には、宇都宮市の市街地に現れたクマが大きな騒ぎとなった。1頭のクマが麻酔銃で捕獲された後も、各地の市街地や繁華街で目撃情報が続き、不安は収まっていない。
福島民友によると、7月1日午後、福島県喜多方市でクマとみられる動物が座っていると喜多方署に通報があった。現場は市役所から約500メートルほどに位置する市中心部という。
また、岩手日報によると、7月4日午前、岩手県釜石市でクマの目撃情報があった。1頭が商店街や市街地を通り、山林に立ち去ったという。
●学校現場では、特別の“クマ対応”も
宇都宮での騒動の際には、SNSでも「クマ怖いので明日から在宅勤務でいい?」「在宅勤務にしたほうがよくね?」といった投稿が広がった。
「宇都宮中心街、しかもアーケード街にクマ出没ってイヤだなぁ・・・職場は10Kmくらいしか離れてないんだよね ずっと在宅勤務にしたい」(Xより)
学校現場では、クマの出没を受けた“特別の対応”もおこなわれている。
報道によると、仙台市では、登下校に不安を感じた児童・生徒が通学しなかった場合、校長の判断で「欠席扱い」としない方針を市立校に通知したという。
では、会社員がクマの出没を理由に在宅勤務を希望した場合はどうだろうか。会社は応じなければならないのだろうか。労働問題にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。
●原則として通勤中の「安全配慮義務」を負わない
──クマ出没によって通勤に危険があるとして、従業員が在宅勤務を求めた場合、会社は応じる義務があるのでしょうか。また、通常どおり出社を命じることは法的に問題はないのでしょうか。
従業員が会社の指示にしたがって労務を提供し、その対価として会社が賃金を支払うのが雇用契約です。
ただし、会社は賃金を支払っていればよいわけではありません。
会社には、従業員が就労中に生命や身体、健康を害することがないように配慮する義務(安全配慮義務)があります。
しかし、自宅から職場への通勤途中や、職場からの帰宅途中は、会社の指揮命令下にある時間ではなく、会社のために労務を提供している時間でもありません。
そのため、会社は原則として、通勤・帰宅中の事故などについて安全配慮義務違反の責任を負いません。
●会社は割り切るべきではない
──では、「在宅勤務」は希望できないのでしょうか。
先述の法的な考え方を前提とすれば、市街地にクマが出没しているという事情だけで、従業員が会社に対して在宅勤務を請求できないことになります。
しかし、近年はクマの出没のみならず、人身被害が各地で発生していることも事実です。
従業員が通勤中にクマ被害に遭い、負傷して欠勤や休職を余儀なくされれば、会社にとっても業務への影響は避けられません。
また、「在宅勤務の配慮をしてくれていたら、クマ被害に遭わなかった」と感じる従業員が増えれば、会社に対する信頼や仕事へのモチベーションにも影響します。
その意味で、会社としては、通勤中は安全配慮義務は負わないから関係ない、と割り切るべきでないと考えます。
在宅勤務でも業務に支障がない職種や部署であれば、リモートワークを認めるなど、柔軟な対応を検討することが望ましいといえるでしょう。
●ガソリン代補助や社用車使用も選択肢
──在宅勤務を認めたほうが良さそうですね。
たとえば、クマ被害が報道されたものの、その個体の捕獲や駆除が確認されていない状況があるとします。
そのような場合には、一定の期間、状況を見ながら在宅勤務を認めることも考えられるでしょう。
また、自転車通勤の従業員に対してガソリン代を補助して自動車通勤を促したり、通勤目的での社用車利用を認めたりするなどの配慮があってもよいでしょう。