別居している父親が、小学生の娘との面会中に性的暴行を加えていた──。そんな事件が報じられ、大きな衝撃が広がった。
朝日新聞(6月10日付)によると、実の娘に性的暴行を加えるなどしたとして、不同意性交と性的姿態等撮影の罪に問われた父親に対し、大阪地裁堺支部は6月9日、懲役7年を言い渡した。父親は当時、妻子と別居中で、面会の機会に犯行に及んでいたという。
離婚やDV問題にくわしい岡村晴美弁護士は、この事件について「氷山の一角だ」と話す。
刑事事件として明るみに出るのはごく一部にすぎず、被害が表面化するまで止められないケースがあるという。
共同親権制度も始まり、面会が「親子交流」として重視される今、子どもの安全はどう守られるべきなのか。岡村弁護士に聞いた。
●性的虐待、面会交流の現場では「珍しい話ではない」
別居親との面会中に性的虐待が疑われるケースは、岡村弁護士の経験上、決して多数ではない。
それでも「面会を支援する現場では珍しい話ではない」と話す。
「今回のように事件が報じられると、極めて稀なケースだと思われがちですが、実際には氷山の一角です。別居親との面会で性被害を受けている子どもは確実にいます」
不同意性交にまで至らなくても、入浴を口実に子どもの体に触る、添い寝をしながら性的な働きかけをするなどのケースも実際にあったという。
●「仲良し親子」に見える――発見が遅れる構造
こうした被害は、周囲が気づきにくい特徴がある。
「父親が娘にベタベタしているんです。兄には暴力的なのに、妹には膝の上に乗せてかわいがる。父親本人も『自分は優しいお父さん』と勘違いしていることがあります」
しかし、その実態は子どもの警戒心を解いて支配する「グルーミング」(手なずけ)や、子どもの健全な成長を妨げる「マルトリートメント」(不適切な養育)だという。
入浴の際に「きれいにしてあげようね」と言いながら過度に性器に触れる、「性教育」と称してわいせつな行為をする──。
子ども自身も、それが性的虐待だと理解できず、保健体育の授業などで知識を得て初めて「あれは、おかしかった」と気づくケースも少なくない。
「だから表面化しにくいのです。成長して被害の意味に気付いたときのショックは、非常に大きいものになります」
●母親が危険性をうったえても「面会交流」が認められた
家庭裁判所が調整する面会交流ですら、性的虐待は起きうる。
ある父親は同居中、ショッピングモールで突然、子どものスカートと下着を下ろしたことがあった。子どもが悲鳴を上げても、「冗談だよ」と笑って済ませたという。
普段から性的なからかいが目立ち、母親は離婚時の家庭裁判所の調停でも、こうした父親の「性的逸脱」をうったえていた。
しかし、父親が否定し、裁判所は面会交流を認めた。
「結果として、その後に性的虐待が起きてしまいました」
母親はさらに、家庭裁判所からは「面会交流の後、子どもがプレッシャーを感じないよう、何があったか根掘り葉掘り聞いてはいけない」「明るく『おかえり』と温かく迎えてあげて」と助言を受けていたという。
面会中の子どもから「帰りたい」と電話があっても、母親は「大丈夫だよ。楽しんできてね」となだめるしかなかった。
●学校で初めて性的虐待の被害を打ち明けた
転機は学校だった。子どもが教師に「面会が嫌だ」と打ち明け、その際、入浴中などにわいせつな行為を受けていたことを初めて話した。
学校が児童相談所へ通告し、児相は「直ちに面会を中止してください」と告げた。
ただし、母親が独断で面会を中止すれば、状況によっては父親から損害賠償を請求されたり、間接強制金の対象になりかねない。
そのため、母親はすぐに家庭裁判所に調停を申し立てた。そこで明らかになった性的虐待は常軌を逸したものだったという。
「お母さんからすれば、『私は言いましたよね?』という思いだったでしょう」
●面会交流中に子どもが殺害された事件も
こうした危険は性的虐待だけではない。
2017年には兵庫県伊丹市で、面会交流中に4歳の女の子が父親に殺害される事件が起きた。
当時の読売新聞によると、母親は養育費が支払われていないとして家裁に調停を申し立てた。父親は面会回数の増加を求めたが、母親は同居時の暴力などを訴えて反対したという。
その後、審判に移行して、面会交流は月1回に決まったが、初回で最悪の結果となった。
「こうした事件は突然起きるわけではありません。多くの場合、お母さんは事前に何らかのSOSを発しています」
岡村弁護士は、裁判所が面会交流の方法や回数まで細かく決めなければならないケースは、もともと親同士の対立や不信が強い事案だと指摘する。
「親同士の信頼関係があれば、裁判所が細かなルールを決める必要はありません。それができず、第三者機関を介してキャンセルの連絡までしなければならないのは、それだけの事情があります。
それでも、性的からかいなどの段階では、危険性が軽く受け止められ、面会交流が続いてしまうことがあります」
●共同親権導入で問われる「子どもの安全」
今年4月、共同親権の導入を柱とする改正民法が施行された。
あわせて、法律上の「面会交流」は「親子交流」と位置づけられ、「DV・虐待等に対する安全確保の徹底」が制度の理念として掲げられた。
制度上は、子どもの安全が重視されることになった。しかし、その理念が現場でどこまで実現されるかは、これからの運用にかかっている。
親や子どもが発するSOSを、裁判所を含む関係機関がどこまで受け止められるのか──。
岡村弁護士は「安全確保という理念を、実際の運用でも徹底していくことが重要です」と話している。