「事件のことは聞いてはいけないということでしたので・・・」。息子で俳優の高畑裕太容疑者が強姦致傷容疑で逮捕されたことを受けて開かれた記者会見(8月26日)で、女優の高畑淳子さんは、「接見のときに何を話したか」という質問を受けて、そう語った。
だが、刑事弁護に取り組む弁護士らによる任意団体「刑事弁護フォーラム」のサイトに掲載された解説ページには、家族が接見するとき「事件について聞いてはいけない」とは書かれていない。
また、係員の立会いに関する項目に「面会には、拘置所の係員が立ち合い、証拠隠滅の疑いがあるやりとりをしていないか等のチェックをします」とあるが、「ただし、不審な会話ややりとりをしていない限り、会話を遮るということはありません」と記している。
高畑淳子さんがいっているルールは、本当にあるのだろうか。刑事事件にくわしい荒木樹弁護士に聞いた。
●発言内容の制限は「よくあること」
「身柄を拘束された被疑者との面会の際、警察署や拘置所の職員から『事件の内容は話題にしていはいけない』と言われることは、よくあることです」
面会の際の発言内容を制限する法律上の根拠はあるのだろうか。
「刑事裁判を受けるために逮捕・勾留されている者を『未決拘禁者』と言います。『刑事収容施設法』では、未決拘禁者の弁護人以外の者の面会について、発言内容について制限を加えているからです(弁護人との面会については制約はありません)。
そして、次のような発言があった場合には、刑事施設の職員は、発言を制止し、面会を一時停止させることができます。
1) 暗号の使用その他の理由によって刑事施設の職員が理解できないもの。2) 犯罪の実行を共謀し、あおり、又は教唆するもの3) 刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれのあるもの4) 罪証隠滅の結果を生じるおそれのあるもの
これは『刑事施設収用法』113条に基づきます」
●「かなりの罪証隠滅行為が見過ごされている」
家族が「事件のことを聞く」行為もダメなのだろうか。
「法律上の規定を形式的に見る限り、『事件の話題をすること』自体は、問題がないようにも見えます。ただ、現実問題として、罪証隠滅行為となる発言かどうか、刑事施設の職員には、通常は容易にはわかりません。
例えば、『自宅にある、冷蔵庫の青いびんを捨てて置いて』(証拠廃棄)とか、『○○君に、俺は最後まで頑張るから、と伝えて』(通謀)、『台風が来た日は、北海道にいたから、快晴だったわ。』(アリバイ)といった何でもないかのような発言でも、罪証隠滅につながることは想像がつくと思います。
これに、合言葉のような発言を加えられると、刑事施設の職員には全くお手上げでしょう。そこで現実には、かなりの罪証隠滅行為が見過ごされていると思われます」
荒木弁護士によると、さらに別の事情もあるそうだ。
「刑事施設の職員は、警察の場合も含めて、通常は、事件の内容について、逮捕状に記載されている事実以外のことは分かりません。会話の中の登場人物が、事件関係者かどうかすらも、通常はわからないのです。
したがって、罪証隠滅の結果を生じるおそれのある発言が禁止されていても、実際に立ち会った職員が、本当に禁止できるのかとなると極めて難しいものです。
あらかじめ、罪証隠滅の危険が高い場合には、裁判所から、弁護人以外との面会を禁止する接見禁止命令を発することもできます。しかし、そうしたケースはごく稀です」
●「法律上の根拠はかなり曖昧」
仮に、面会者と事件の内容に関するやりとりをした場合には、罪に問われるのだろうか。
「『事件に関する話題をしないでください』と注意する刑事施設側の運用は、法律上の根拠はかなり曖昧のようにも思えますが、罪証隠滅発言を予防的に防止するための『措置』と解するほかないかと思います。
ですので、この刑事施設職員の注意に反したからといって、直ちに、刑事施設収用法で禁止された罪証隠滅の発言にあたるとは言えません。
ただし、面会中に事件の話題をすることは、刑事施設職員の事前の注意に従わないことになるわけですから、刑事施設の規律・秩序を乱す行為と指摘される可能性は残り、面会を中断させられるおそれがないとは言えないと思われます」