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児童ポルノブロッキング、プロバイダーは訴訟リスク抱え運用…JAIPA立石氏「カジュアルにはできない」
JAIPA・立石聡明副会長

児童ポルノブロッキング、プロバイダーは訴訟リスク抱え運用…JAIPA立石氏「カジュアルにはできない」

「漫画村」などの海賊版サイト対策として、政府がISP(インターネッサービスプロバイダー)に対してブロッキング(接続遮断)の協力を呼びかけた問題。ユーザーの「通信の秘密」を侵害する恐れがあると専門家から指摘を受けながらも、NTTグループが3つの海賊版サイトのブロッキング実施を発表した。これに対し、埼玉県の弁護士が差し止めを求める訴訟を起こすなど、議論は激しさを増している。

では、実際にブロッキングを行う立場にある事業者はどのようにこの問題をみるのか。現在、唯一国内で行われている児童ポルノサイトのブロッキングに協力してきた一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)の立石聡明副会長にインタビューした。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●事業者が自らの費用と自らのリスクで行ってきた「児童ポルノ」ブロッキング

ーー現在、行われている児童ポルノと海賊版サイトのブロッキングは何が違う?

「そもそも、サイトブロッキングは法的にも技術的にも、カジュアルにできるものではありません。しかし、児童ポルノの場合は、その被害が深刻な人権侵害だという認識が我々にはあるから実施しています。事業者が自らの費用で、リスクを負ってでもやるべきだと思っているからできるわけです。それと、今回のサイトブロッキングを同列に並べてはいけません」

ーー事業者には、どのようなリスクがある?

「児童ポルノをブロッキングするという話が持ち上がった時、今と同じように、法曹界を中心に『通信の秘密』を侵害するのではないかという議論がありました。何年も議論して体制を整え、児童ポルノのサイトブロッキングは『緊急避難措置』としてユーザーの同意が得られるとして、実施されることになりました。しかし、万が一、ユーザーから訴えられたら、事業者は負ける可能性があります。なぜ訴訟になっていないのかというと、『俺に児童ポルノを見せろ』といって訴える人がいないから、というだけです。ですから、事業者にとってブロッキングはギリギリの選択なのです。

ところが、海賊版サイトは違います。例えば、カドカワが儲かろうが、損しようがまったく関係のないユーザーが大勢います。ユーザーの『通信の秘密』が侵害されますが、ブロッキングに協力してくださいと聞いた時、ほとんどの事業者は協力しないのではないでしょうか。海賊版サイトのブロッキングで、『全ネットユーザー1億人の同意は取れますか?』ということです」

●児童ポルノのブロッキングはユーザーとプロバイダーの協力で成立

ーー現在、児童ポルノのブロッキングはどのように実施されている?

「警察やインターネット・ホットラインセンターから情報提供を受けた、インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)がリストを作ります。このリストを作成、管理するだけで年間3000万円くらいかかります。児童ポルノの被害者に費用負担してもらうわけにはいきませんから、残りは事業者がそれぞれ自腹で負担します。

リストを作成するには、全て目視しています。本当に児童ポルノなのかわからないグレーゾーンのものは小児科医や弁護士に判断してもらうなど、判断する基準を設けています。リストを作成したら、プロバイダーに送ってブロックが実施しますが、いつか児童ポルノは消されます。児童ポルノが消えたサイトをブロックしているわけにいきませんから、2週間に1度くらいの頻度で再度、サイトを確認します。

ここまでの仕組みを作るのに、何年もかかりました。リストの管理にしても、漏れたら大変ですから、暗号化しますが、それが崩れないか。ブロッキングもきちんと作動するか。掲示板の一部だと、全部が見えなくなる可能性もありますし、テキストは対象ではないので、画像だけ消す技術が必要です。その過程で発生したエラーにどう対応するか。ユーザーに協力していただきました。目視する人のカウンセリングも実施しています。

ここまでやって、初めてほぼ無事故で運営できている状態ですが、それでもいつ訴えられるかわからないリスクを負っている。それくらい、プロバイダーは慎重にブロッキングを実施しています。だから、政府や出版社はカジュアルにブロッキングといってますが、本当にわかっているのかと。この仕組みを作るのに3年はかかりますから、立法の方が早いです。だとしたら、緊急措置としては難しい手段です」

●ブロッキングは技術的にも困難で、有効ではない理由

ーーブロッキングは技術的に可能?

「さらに、ブロッキングの難しさは、テクニカルなリスクが大きいことです。2008 年、イギリスでウィキペディアがすべて見られなくなる事故が起きました。原因は、ドイツのロックバンドのジャケットに掲載された少女のヌード画像が児童ポルノと認定されたためです。ウィキペディアはイギリス国内で特殊な配信をしていたため、画像だけをブロッキングしたつもりが、全ページが止まってしまったわけです。

現在、ネットでは遠いサーバーでも速く見せるために複雑な技術を使っています。海賊版サイトのサーバーは海外にあり、遅くならないためにCloudflareを使用していました。もし、海賊版サイトの著作権が侵害されている、ある部分だけ止めようとしたら、ブロッキングが必要ないところに影響があるかもしれない。やってみないとわかりません。

また、イギリスやイタリアでは違法情報が掲載されているサイトをブロッキングしていましたが、Cloudflareはそうしたサイトを見られるようなツールを配っています。ブロッキングができたとしても、技術的に回避する方法はたくさんあります。つまり、ブロッキングは技術的にも有効な手段ではないのです」

●海賊版サイトからブロッキングが拡大する懸念

ーーでは、ブロッキング以外に対策は?

「海賊版サイトは広告で収入を得るビジネスモデルです。児童ポルノの場合は、ほとんどがDVD販売サイトで、見る人が少なく、広告のビジネスモデルとしては成立しないのでブロッキングが有効ですが、海賊版サイトは違います。指摘されているように、広告から対策することは可能です。

同時に、かつて著作権侵害で訴訟を起こされた音楽ファイル共有サービスNapsterへの反省から、音楽業界がiTunesに協力したように、漫画村のようなサイトを出版社自身が作るなど、ビジネスモデルから変えていかないと解決しないのではないでしょうか。

そして、我々が恐れているのは、ブロッキングが児童ポルノや名指しされた海賊版サイト以外に広がることです。実際、プロバイダーにもJAIPAにも、『自分の著作権が侵害されているから、このサイトをブロッキングしてほしい』というリクエストがすでに来ています。

しかし、児童ポルノの時にも『これ以外に広げません』という条件で、プロバイダーは協力することになった。海賊版サイトのブロッキングが『蟻の一穴』となりかねません。もちろん、違法サイトを野放しするつもりはなく、ユーザーとプロバイダーが丁寧に、信頼関係を築きながら、対策を考えていくことが必要です」

(弁護士ドットコムニュース)

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