弁護士ドットコム - 無料法律相談や弁護士、法律事務所の検索

2018年02月21日 09時54分

「性別適合手術」待望の保険適用 「手術なし」での性別変更、今後の課題に

「性別適合手術」待望の保険適用 「手術なし」での性別変更、今後の課題に
画像はイメージです(Rina / PIXTA)

4月から心と体の性が一致しない性同一性障害(GID)の人を対象にした「性別適合手術」が保険の対象になる。最大3割の自己負担で手術が受けられる。

性別適合手術は、戸籍上の性を変えるためにも必要で(性同一性障害者特例法)、これまで約7000人が性別を変更している。しかし、保険が適用されず、手術代が高額になるとして、ためらう人も多かったとされる。

●FTMの「乳房切除術」にも適用

厚労大臣の諮問機関「中央社会保険医療協議会」(中医協)が2月7日に発表した答申によると、保険の対象になるのは、(1)精巣摘出術、(2)陰茎全摘術、(3)子宮全摘術のほか、(4)女性から男性への性別適合(FTM)における乳房切除術

厚労省保険局によると、答申の内容を法令へ落とし込み、4月1日から適用開始になるという。事実上の決定と考えてよい。改正の持つ意義や残る課題について、セクシュアル・マイノリティーの問題に詳しい原島有史弁護士に聞いた。 

●当事者たちは保険適用を待ち望んでいた 今後はホルモン剤への適用が望まれる

ーー手術も含め、性同一性障害の治療にはどんなものがある?

「性同一性障害に対する治療は、(1)精神科領域の治療(カウンセリングなどの精神的サポートや実生活経験)と(2)身体的治療の2つから構成されています。

身体的治療としては、ホルモン療法、乳房切除術、性別適合手術などのほか、現在は二次性徴抑制治療(二次性徴の進行を抑制する治療)などがあります。

カウンセリングなどの精神科領域の治療には現在でも医療保険が適用されますので、初診は2500円程度、再診は1500円程度で受けることができるようです。一方、身体的治療では、これまで原則として医療保険の適用がありませんでした」

性同一性障害に対する主な治療法

ーー性別適合手術には、どの程度の費用がかかっていたのか?

「かつては海外で受けることが主流でしたが、現在は日本国内でも実施している医療機関は複数あり、インターネットで探せます。費用については、身体的治療は原則として保険適用外(自由診療)でしたので、医療機関によって異なります。

一般的には、男性から女性への性別適合(MTF)であれば130万〜200万円程度、女性から男性への性別適合(FTM)であれば90万〜150万円程度です。ただし、術式によっても異なり、乳房切除術(FTM)だと、だいたい70万〜100万円程度です。

医療保険の適用対象化は、長年多くの当事者が望んでいたことですので、とても良い流れだと思います。もっとも、性別適合手術は不可逆的かつ身体的負担の大きい手術ですから、保険が適用されるからといって直ちに手術を受ける当事者が増える、というわけではないかもしれません。

また、現在は原則として保険適用外であるホルモン療法についても、当事者からは保険適用を望む声が上がっています。医療保険が適用されるようになれば、たとえば現在は運用がまちまちになっている拘置所や刑務所でのホルモン治療継続の徹底など、副次的な効果も期待できます」

●国際潮流は「手術なし」でも性別の変更が可能

「日本では、法令上の性別変更をするためには未だに性別適合手術が要件とされていますが、国際的な潮流としては、このような要件は廃止される方向に進んでいます。

たとえば、世界保健機関(WHO)などの国連機関が2014年5月に共同発表した報告書では、各国に対し、トランスジェンダーの人々に対する断種手術(生殖機能をとる手術)の強制をやめるよう勧告しています。

また、2016年の国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)のヨーロッパ報告書によると、性別変更に関する法的手段を有する30か国中15か国で生殖不能が要件とされていないとのことです。

さらに、ヨーロッパ人権裁判所の2017年4月6日判決は、本人が望まない性別適合手術または不妊化治療を受けることが身体の完全性の尊重への権利の放棄となり、ヨーロッパ人権条約8条の私的生活の尊重に違反すると判断しました。

性別適合手術への保険適用は望ましい方向ではありますが、そのことと並行して、法令上の性別変更の要件緩和も進めていく必要があります

一口に性同一性障害者といっても、性別適合手術を希望する人もいれば、身体にメスを入れることは希望しないという人もいます。『安くしてやるから、トランスジェンダーはみんな性別適合手術を受けて性別変更しろ』と無言の圧力をかけるような社会になってしまっては、元も子もありません。

『男はこうしなくてはいけない』『女はこうでなければならない』といったステレオタイプの押しつけは良くないと考える人が増えてきたと思いますので、それと同様、『性同一性障害者はこうしなければならない』といった押し付けも、今後は無くなっていくとよいですね

(弁護士ドットコムニュース)

原島 有史弁護士
青山学院大学大学院法務研究科助教。LGBT支援法律家ネットワークメンバー。特定非営利活動法人EMA日本理事。過労死問題や解雇などの労働事件、離婚・相続などの家事事件などに関わる傍ら、LGBT支援の分野でも積極的に活動している。
バナーの画像、書かれている内容は「あなたの体験を記事にしませんか?体験談募集」